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「伊丹さんの恋」−『相棒』二次創作小説


『相棒』のキャラクターを使用して書いておりますが、本編とは全く関係ありません
  cometikiオリジナルストーリーです (c)テレビ朝日・東映
※何気に連載モノ 『相棒 ふたりだけの特命係』TOPの下に作品がまとめてあります


その日、警視庁の廊下に”花の化け物”が現れた―…
 「はーい、どいてくださーい!通りますよぉー!」
両手に抱えた花束は、芹沢の視界を完全に塞いでいて、お陰で周囲の冷たい視線を
感じずに済んでいた。ありがたいのか、悲しいのか…注意を促す声には、自然と不満
の色が濃く現れていた。

                       ***

 「うわっ!何だ?何だ??」
突然、目の前に置かれた花の山に、薫は一瞬ひるんだ。
 「あーっ!疲れたっ!!」
大仰に肩を回して、いかに苦労しているかを芹沢はアピールする。ティーカップを傾け
ていた右京は、それを察して声を掛ける。
 「どうしたんですか?コレ?」
 「先輩からですよ!」
 「は?伊丹?!何でアイツが?」
 「もぉ〜聞いてくださいよ!!大変なんですからぁ〜!!」
そう言って、芹沢は薫にすがりついた。

                       ***

1週間程前だったという。
芹沢はいつものように、伊丹と三浦の3人でちょっと遅い昼食をとった帰りだった。
「キャーッ」という、絹を裂くような悲鳴に3人は刑事として、機敏に対応した。振返る
と女性からバッグを奪った男が、走り去る瞬間だった。路上に倒れた女性に三浦が
、伊丹と芹沢は男を追った。
路地に逃げ込んだ男を、伊丹と芹沢は追い詰めたかのように見えたが、瞬間。男は
手にしていたバッグを伊丹と芹沢に投げ付け、高い塀を「ひょい」と越えて去って行
ってしまった。
 「だーっ!クソ!!」
 「うーわー…猿ですね、猿」
 「感心してる場合か!!」
呆気にとられていた芹沢の頭を、腹立ち紛れに伊丹がゲンコツで殴った。
 「自分だって登れなかったクセにぃ〜!!」
芹沢は伊丹に抗議の声を上げたが、伊丹は無視してバッグを拾い上げると、元の
場所に向かった。
道端のベンチのような所へ座って、女性と共に三浦が待っていた。
 「おう。どうだった?」
伊丹が無言で首を左右に振る。三浦は、軽い溜息を吐いた。
 「えーっと。これ、お返ししますよ?」
三浦の隣に隠れるように座っていた女性に、伊丹はバッグを渡す。
 「…ありがとうございました」
ゆるくパーマのかかった長めの髪の毛が揺れて、女性が顔を上げる―…少し潤ん
だ瞳は深く澄んでいて、整った鼻、桜の花びらのような唇。楚々とした美しい女性
がそこに居た。
伊丹は、思わず息を呑んだ。
 「先輩!」
芹沢に腕を突かれて、伊丹は自分がバッグを手放していない事に気付いた。
 「し…失礼!」
慌てて手放すと、女性は伊丹に向かって優しい微笑みを向けた。
 「あ…の、家までお送りしましょうか?」
 「大丈夫です。すぐ、そこですので…」
立ち上がった拍子に女性の足元が揺らいだ。咄嗟に伸ばした伊丹の腕に、「ふわ
っ」と、女性の手が触れる。
 「すみません…」
 「送らせてください!」

                       ***

 「もーねー!バレバレだっつーんですよ!!」
右京に入れてもらった紅茶を飲みながら、ソファに座って、芹沢は管を巻いた。薫
は隣に座って、興味津々に身を乗り出して続きを聞く。
 「それで、それで?告白したのか?!」
 「しないんですよ!そのクセ毎日通っちゃ、買ってくるんですから!!」
 「は?」
芹沢は怒りの矛先を、机の上の花束に向けた。
自分の席に座って、大人しく話を聞いていた右京が、薫に分かりやすく説明する。
 「つまり、その女性は花屋を営んでおられる…もしくは、そこで働いておられるの
 ではないでしょうか?」
 「ああ…客のフリして彼女に会いに行ってんのか!!」
 「お陰で一課は、花だらけですよ!今日なんか遂に課長がキレて…”コレ、どうに
 かしろ!”って」
 「あはは…大変だな〜…って、何でウチに持ってくんだよ!?」
 「しょーがないでしょう?”捨てたら殺す!”って先輩に言われてるんですから!」
 「だからってなぁ〜…」
薫が立ち上がった所で、芹沢の携帯が鳴る。スーツのポケットから取り出す、芹沢

 「ハイ。芹沢―…ああ、先輩?はい。え?!事件??」
右京と薫、顔を見合わせる。

                       ***

 「美花さん。私が来たからには、もう安心ですよ」
 「伊丹さん…」
フラワーショップ・斉藤の奥には、美花達が暮らす自宅があって、そこに空き巣が
侵入したらしい。配達から帰って来ると、家の中が荒らされており、驚いた美花は
伊丹へと連絡し、そして伊丹が芹沢へ電話した…という次第。
右京と薫、そして芹沢が駆け付けると、所轄の人間が来て捜査を開始していた。
その真っ只中で、2人の世界を突っ走っている伊丹を見て、薫が吹き出した。
その声で、伊丹は我に返る。
 「なっ…カメ!?何やってんだよ!!」
 「いや、事件だっていうからね」
どうしても堪えられず、薫は口に手を当てて笑ってしまう。
 「芹沢ぁ〜」
 「来ちゃったものはしょーがないでしょう!」
痴話喧嘩になり始めた伊丹と芹沢を無視して、右京は美花に話し掛ける。
 「現金、通帳、印鑑以外で何か、無くなっている物はありませんか?」
 「え?あの…」
困っている美花に気付き、伊丹は右京の前に躍り出る。
 「警部殿〜…何をしにいらしたんですかぁ〜?」
 「事件への純粋な興味です」
右京はケロリとそう言って、その辺を見て歩き出す。伊丹は「キッ」と、薫を見た。
 「お前は帰れよ!!居たって役に立たねぇんだから!!」
 「いやぁ〜俺はホラ。お前の片想いへの純粋な興味で来てるから―…」
薫はニヤニヤしながら、美花を見る。
伊丹は薫の胸倉を掴むと、極小の声で目一杯のドスを利かせた。
 「余計な事言ったら、ブッ殺すぞ?」
 「”伊丹さん、怖ぁ〜い”」
薫は女声で応戦してみせる。
 「カメ!テメェっ!!」
 「ギャハハ…」
 「ちょっと、何コレ?」
薫の笑い声を打ち消すような、凛とした声が室内に響いた。
 「千花!」
美花が振返るのと同時に、一同もその声の主の方を向く。そこにはセーラー服を着
た少女が立っていた。肩の辺りで揃えられた髪の毛と、着崩してない制服姿が彼
女の内面を現しているようだ…美花に負けず劣らぬ美貌を持っているが、それにつ
いてまだ本人は自覚していないようである。いや、押さえ込もうとしているのか?
千花の周りはトゲトゲしい空気で、武装されていた。
 「お姉ちゃん、大丈夫?何があったの?」
 「配達に行ってる間に、泥棒が…それで、慌てて伊丹さん呼んじゃって…」
オロオロしながら美花は、伊丹を見た。千花は渋々目線だけ向けると、伊丹に「どう
も」と言った。
 「何?お前、知り合い?」
薫が何気なく伊丹に聞くと、代わりに千花が嫌味タップリに応えた。
 「毎日、毎日、朝・昼・晩と大枚はたいてお花買ってってくれる、上得意様よ♪お花
 には興味が無いようだけど?」
 「黙れ!ガキ!!」
 「ねぇ。刑事って、そんなに暇で儲かるんですか?」
伊丹を無視して、千花は薫に聞く。
 「ああ。コイツ、他に金の使い道無いから」
即答した薫を、伊丹は睨んだ。
 「あら?そういえば…どこにやったかしら?」
思い出したように、美花が口を開いた。
 「何をですか?」
美花が話し出し易いように、右京が声を掛ける。
 「バッグです…ちょうど今、千花が持ってるのと同じような」
 「アレ?コレ、この間盗まれそうになったヤツ…」
バッグに伸びた伊丹の手を、千花は叩いて阻止した。そして、右京に向かって話を
始める。
 「母の形見なんです。小さい頃、お揃いで作ってもらって。ここのタグの部分に私
 と姉の名前が入ってて、そこで見分けるんですけど…姉はよく間違って、私のバッ
 グを使うんです」
右京は少し目付きを鋭くして、千花に言った。
 「中身を拝見できますか?」
 「いいですけど、教科書とかしか入ってないですよ?」
変な事を言う人だ…というようにして、それでも千花はバッグの中身を、テーブルの
上に出して見せた。最後に「コロン」と、小さな鍵が出て来る。
 「何?コレ…」
千花はそっと持ち上げて、美花に確認を取るが、姉は首を横に振るばかりだ。
 「先日、伊丹刑事が取り戻したバッグというのは、こちらだったんですか?」
 「ええ。お姉ちゃん、また間違ってるなぁって…」
 「右京さん、何か事件ですか?」
 「そうですねぇ…」
右京が言い終わるのを遮るようにして、伊丹が叫んだ。このまま事件を右京と薫に
解決されてなるものかと思ったのだ。
 「そういえば!先月の宝石店強盗事件の犯人、まだ捕まってなかったな!?」
 「え?ああ、はい。確か」
伊丹の勢いに押されて、芹沢が呟く。
 「もしかしてコレは、犯人が宝石を隠したロッカーか何かの鍵かもしれない!」
 「いや、でも…強盗が起きたのって、先月ですよ?何で今頃、そんな大事な鍵を
 こんなトコに残して行くんですか?!」
穴だらけの伊丹の推理に、芹沢がツッコミを入れる。
 「バーカ!それを調べるのが、刑事の仕事だろうが!!」
伊丹は芹沢の首根っこを掴むと、勇んで部屋を出て行った。
 「アイツ、完全に周りが見えてないな…」
台風一過………薫はポツリと呟いた。
所轄の人間は「ようやく静かに仕事が出来る」と言わんばかりに、溜息をついて作
業を再開した。ここにいる殆どの人間が、伊丹の”迷推理”を当てにしていないか
のように。
だがその中で、千花だけは何かを感じ取ったようで、右京はそれを見逃さなかった


                       ***

次の日の夜。
伊丹は本来の仕事の合間を縫って、いそいそと美花の様子を見に、店に現れた。
美花はちょうど、出来上がった花束を客に渡している所だった。去って行く客にお
辞儀をする、美花。ふと、視線の先に伊丹を見つける。
 「伊丹さん」
 「こんばんわ。大丈夫ですか?」
 「はい。昨日は、すみませんでした。お忙しいのに…」
 「いいえ!とんでもない!!」
 「伊丹さんは、もっとすごい事件を担当されてるんだから、邪魔しちゃダメでしょ…
 って、あれから千花に叱られてしまったんです。私、よく知らなくて…」
赤面して俯く、美花に伊丹は思い切って声を掛ける。
 「いっ…忙しくても、美花さんが大変な時には、助けに来ますから…」
 「まあ、嬉しい」
美花は、ケーキを買って貰った子供のような純粋な笑顔で、伊丹に応えた。伊丹は
赤くなりそうな頬を見られたくなくて、顔を逸らした。
 「あれ?妹さんは?」
軒先でこんな会話をしていると、大抵横槍を入れてくる千花の姿が、見えない。
 「それが…学校から帰ってきたら、あのバッグを持って、出て行ってしまったんです
 。刑事さん達に、事件が解決するまで使わないように言われていたんですけど…」
 「え!?あれを持って、出掛けたんですか?!」
伊丹は、美花の肩を掴んで確認する。大きく目を開いて美花は、「はい」と言った。
 「すみません。失礼します!」
 「あの…伊丹さん…」
美花の問い掛けの声も聞かず、伊丹は走り出した。スーツのポケットから携帯を取
り出すと、しばし逡巡したが「チッ」と吐き捨てて、ボタンを押した。そして、相手が出
ると間髪入れずに話を切り出した。
 「おい、カメ!お前にゃ山程、貸しがあるよな?それを今、返せ!!うるせぇ!千
 花が勝手に、囮捜査始めやがったんだよ!!止めるから、手ぇ貸せ!!」

                       ***

美花が強盗に遭い掛けた場所に、千花は立っていた。
ドライヤーで髪の毛にクセをつけて、ゆるいパーマがかかっている風にした。化粧を
して、服も美花の物を借りた―「さあ、どこからでも来い!」そんな気持ちで、千花は
静かにその時を待っていた。

                       ***

子供の頃は、我侭だった。
両親から買って貰ったオモチャやお菓子…見ていると必ず姉の物まで欲しくなり、「
妹だから」という特権で、それを奪う事が出来た。気の弱かった姉は、いつも影で泣
いていたけど、それが当たり前なんだと思っていた。
私が中学2年の頃、両親が交通事故で他界してしまった。
あまりに突然の出来事で、私は自分が壊れるのかと思う程、泣いた。
そんな中、高校3年だった姉は、意外にも気丈に振る舞い、親戚の叔父さんや叔母
さん達と一緒に、両親の葬儀を行った。
翌日。
小さな箱に入った両親の前で、姉は言った。
 「私、大学には行かずに、このお花屋さんを継ぐ事にしたの」
 「え?!」
それは、両親が亡くなった事よりも、ショックが大きかったかもしれない―…。
姉は小さい頃から歴史が好きで、ただひたすらにその勉強だけをしていた。傍で見
ていて、「バカじゃないのか?」と思った事もあったけれど、それだけ熱中出来るも
のがあるというのは、羨ましくもあった。
そしてこの春、希望の大学に入学が決まっていたのだ。
 「嫌だ!大学行ってよ!!あんなに行きたがってたじゃん?!」
 「うーん。でももう、手続きも済ませて来ちゃったんだ」
悪戯っぽく笑う姉だったけど、本当は知っている。家にはもう、それだけのお金が
無いんだという事―…姉はこれ以上、何を奪われなければいけないんだろう?!
 「じゃあ、私も学校辞めて働く!!」
その瞬間、生まれて初めて姉にぶたれた。
 「バカ!アンタまだ中学生なのよ?!学校行かないでどうするの!?」
 「だって、お姉ちゃん…」
 「千花は、私が守るから―…」
姉はそう言って、力強く笑って見せた。
私はその時初めて、色んな物に守られていた事を知った。
そして、これからも守られてゆくのだという事を知った。
だから今度は、私も守る。
お姉ちゃんを支えて行く―…そう、決めたのだ。

                       ***

千花はよく見えるように、バッグを掛けなおした。と、「ドン」と誰かにぶつかったような
感じを受けた。
 「すみませ…」
振り返って謝ろうとした途端、無言で腕を引っ張られた。抵抗を試みるが、男の腕力に
は敵わない。
 「ちょ…嫌っ!!」
千花が叫び声を上げるのと同時に、伊丹と薫が飛び掛って、男を取り押さえた。
 「22時18分、被疑者確保!もっと押さえろ!カメ!!」
 「何お前が仕切ってんだよ!貸せ、手錠!!」
千花が呆然と立ち尽くしていると、背後から右京の声がした。
 「亀山君!」
薫は口を尖らせながら「はーい」と言って、納得いかない表情のまま、伊丹の作業を
手伝った。
右京はそっと千花に寄り添い、声を掛ける。
 「怖かったですね?」
 「え?」
 「手、震えてますよ?」
千花は自由になった手を、もう片方の手で握り締めた。
 「お前が宝石強盗の犯人だな!!」
男を立ち上げて、伊丹が意気揚々と啖呵を切った。そこへ右京が間髪入れずに、こ
う言った。
 「あ、伊丹刑事。その件ですが、犯人は先程、青森県で逮捕されたそうですよ」
 「はぁっ?!じゃ、お前は何なんだよ!?」
伊丹は、男の襟元を掴んで引き寄せる。
 「すみません!受験勉強が辛くてつい…ムラムラと…」
男の一言で脱力した伊丹の代わりに、薫が「ペチッ」と男の頭を叩いた。

                       ***

 「お前なぁ!囮捜査なんて、ドラマみたいに巧くいくとは限らねんだぞ!!」
所轄の会議室の椅子に座って、この調子で早1時間。伊丹は千花を説教している。
まるで門限を破った娘を叱る、父親のように。
千花は、ただ黙って伊丹の声を聞いていた…。
 「おい、伊丹…その位にして、そろそろ…」
 「うるせぇ!お前は、黙ってろ!!」
「右京さぁ〜ん」と薫は、右京に助け舟を求める。千花を見守っていた右京が、ついに
腰を上げた。「よしっ!」と小さくガッツポーズする、薫。
 「伊丹刑事。僕達はそろそろ、帰ります」
 「はぁっ?!」
伊丹と薫が、同時に叫んだ。
 「いや、右京さん?千花ちゃんも連れて帰らないと…ホラ?」
 「伊丹刑事でなければならない事が、あるんですよ」
 「え?俺?」
何の事だか分からないといった表情の伊丹に、右京が微笑む。
 「お邪魔虫は退散します」
右京は、スタスタと部屋を出て行く。薫もわからないままに、その後を追った。室内に
は、伊丹と千花だけが残された。
途端に静かである…。
右京の所為で、怒りのテンションも下がってしまった伊丹は、この場をどうしようかと
考えた。次の瞬間―…
 「怖かったよーっ!!」
千花が机に突っ伏して、号泣した。
伊丹は、椅子から転げ落ちんばかりに驚いた。それまでの千花からは想像も出来な
い程の取り乱しようだったからだ。
 「な…俺か?俺が、言い過ぎたのか?」
どうしていいのか、何が何なのかわからず焦った。伊丹は、男でも女でも泣く人間は
どう扱っていいのか、わからないのだ。慣れていないというか…。
 「悪かったよ…」
とりあえず謝ってみるが、千花は益々大声で泣き始めた。
 「何だよ、泣くなよぉ〜ホラ」
伊丹は、自分が泣きそうになりながら、ポケットからハンカチを取り出して、千花の前
に差し出した。千花は鼻水をすすりながら、ハンカチを受取った。そして、小さな声で
呟いた。
 「…助けてくれて、ありがとう…」
伊丹はようやく千花が、”男に襲われた恐怖で泣いていた事”を理解した。もらったハ
ンカチで必死に涙を止めようとしている千花を見て、伊丹は思わず頭を撫でてやった

 「もう、泣くな…」

                       ***

数日後。
伊丹がフラワーショップ・斉藤に行くと、美花が見慣れぬ男と話をしていた。ただなら
ぬ雰囲気を察しつつ、声を掛ける。
 「どうも、こんにちわ」
 「まあ、伊丹さん!先日は、千花がお世話になりまして」
 「いいえ。こっちこそ、なんか怖い思いさせちゃって…すみませんでした。鍵の件は
 まだ所轄の方で調べてると―…」
伊丹の声を申し訳無さそうに、美花が遮った。
 「すみません…鍵は、この人のだったみたいで…」
 「は?!」
伊丹が見ると、男は照れ臭そうに笑った。
 「美花ちゃんを驚かせようと思ったんですけど、大騒ぎになっちゃったみたいで…
 すみません」
 「え…っと…」
 「太朗君たら、新居の鍵を薔薇の花が詰った箱に入れて送ってくるんだもん。ビック
 リしちゃった」
伊丹は理解の範疇を超えてしまったようで、鯉のように口をパクパクさせている。美
花は「あらまあ」と言って、改めて”太朗君”を伊丹に紹介した。
 「伊丹さん。こちら、私の婚約者で…」
 「はじめまして!初瀬太朗といいます!」
 「美花さん…結婚…されるんですか?」
 「ハイ。来月お式なんですよ」
美花と太朗は、幸せオーラ全開で微笑んだ。伊丹は、世界が暗闇で覆われていくの
を感じていた。

                       ***

 「え?!お姉ちゃん、伊丹に初瀬さんの事、言ったの?!」
夕食時、美花から日中の出来事を聞いて、千花は驚いた。
 「うん。ビックリしてらしたけど、”お幸せに”って言ってくださったわよ?」
 「もぉ〜…どうすんのよ。アイツ、二度とウチに来ないわよ?」
テーブルに並んだ肉じゃがを口に運びながら、美花は笑う。
 「残念よねぇ〜」
千花は、テーブルを叩いて立ち上がった。
 「お姉ちゃん!アイツは、お姉ちゃんの事が好きなんだよ?!」
美花は、そんな千花を「じっ」と見つめた。
 「そうねぇ。でも、私が好きなのは太朗君なの。だから、伊丹さんを幸せにしてあげ
 られないわ。それは、わかる?」
 「……そりゃ、わかるけど……」
美花は手で、千花を座るように促す。
 「ふふっ。やっぱり、残念ね」
 「何が?!」
 「伊丹さんが来るようになって、久しぶりに千花の怒ったりする顔が見られるように
 なったのに…また減っちゃうのかと思うと、残念」
 「はぁ?何言ってんの?お姉ちゃん!?アイツなんて、全然関係ないよ!!」
千花は、必死で肉じゃがを頬張ってみせる。
 「あら、そう?」
 「ごちそうさま!」
バタバタと食器を重ねて、流しに運ぶ千花に向かって、美花は微笑んだ。
 「千花、お願いがあるんだけど」
 「何?」
 「後悔だけはしないようにね?」
「クドイなぁ―…」と言う千花の言葉を遮って、美花は力強く続ける。
 「不出来な姉からの、お願いです」
美花のその瞳に、「やっぱり、敵わないなぁ」と思いながら、千花は小さく「はい」と答
えた。

                       ***

警視庁のロビーに、セーラー服をなびかせた千花は立っていた。
あまり見慣れない光景なので、関係者の人間はどこか遠巻きに、千花を見ていた。そ
こへ、右京と薫が外から戻って来る。
 「あれ?千花ちゃん?どしたの?」
千花に気付いた薫は、小走りで駆け寄った。
 「亀山さん!あの、伊丹…いやその、伊丹さんに会いたいんだけど…どこに行ったか
 知りませんか?」
 「伊丹刑事なら、もうじき戻って来ると思いますよ?」
 「え?」
薫の横から、右京が顔を覗かせる。
 「アイツ等、トロ臭ぇからさ。また俺達で、事件解決しちゃったの」
イタズラ小僧のように「にしし」と笑う薫を、右京は「亀山君」と言って諌めた。
 「でも、右京さん―…」
薫が反論しかけた時、ロビー一杯に伊丹の声が轟いた。
 「特命係の亀山ぁ〜!!お前は、何度言ったらわかんだ?!この事件は俺達のヤ
 マだ!お前が口出す問題じゃねーんだよ!!」
入口から真っ直ぐ薫に向かって、伊丹は突進して行く。薫も負けじと、それに応戦の
構えを見せた。遅れて三浦と芹沢も入ってくるが、「またか」といったように伊丹の行
動を見て、頭を抱えている。
 「俺達が口出さなきゃ、事件はまだまだ闇の中だったクセに!」
 「んだと?!こっちだってホシの見当くらいついてたんだよ!!」
激しさを増して行く2人の喧嘩に、右京が割って入った。
 「ちょっと、失礼」
 「何スか?警部殿!?俺は今、コイツと話を―…」
 「伊丹刑事、お客様がお待ちです」
右京は少し厳かに、来客の主を手で示した。伊丹はその仕草が癇に障り、乱暴に振
り向く。そこには「じーっ」と伊丹を見つめている、千花の姿があった。
 「何やってんだ?お前、こんなトコで!!」
千花は無言のまま、とてとてと伊丹の目の前まで歩いて来た。勢い良く上を向いて
視線を合わせると、千花はよく通る声で捲くし立てた。
 「前から言おうと思ってたんだけど!その言葉遣い、どうにかしなさいよね!大人
 でしょ?刑事でしょ!?もっと、ちゃんとしなさい!!」
先程まで”子供の喧嘩”が繰り広げられていた場所で、今度は”子供を説教する親”
が現れてその空気を独占した。伊丹は、面食らって「あ…ああ…」と言った。
 「返事は、はい!!」
 「はい!!」
完全に千花のペースだ…ロビーに居る全員は、ただただこの結末がどうなるのか、
観客に徹している。
 「刑事は”正義の見本”みたいなモンなんだから、背筋正して!!」
 「はい!!」
 「前を向いて、目を瞑る!!」
 「はい!!」
伊丹が目を瞑った瞬間!千花は「ひょい」と背伸びして、伊丹の唇のすぐ傍にキスを
した―…
 「おしいっ!ハズしたっ!!」
小さく舌を出しておどける千花に、観客一同がどよめきの声を上げた。伊丹はその声
で我に返り、唇の感触が残っている部分を手で触って確認した。
 「お…お前!何してくれてんだよ!!!」
事の次第が呑み込めた伊丹は、真っ赤になって激昂する。
 「アンタみたいに口が悪くて、ダサイおっさんなんて、アタシ位しか相手にしてやんな
 いんだからね!感謝しなさいよ!!」
千花のその言葉に、ロビーは水をうったように静まり返った。
その静寂を最初に破ったのは、右京だった。無言のまま、拍手を送ったのだ。それに
続いて、薫も調子を取り戻してヤジを飛ばすと、一斉に祝福の拍手喝采が沸き起こっ
た。
 「よかったな!伊丹!!結婚式の二次会位なら、出席してやるよ!!」
 「先輩!俺、幹事やりますから!!」
 「伊丹。友人代表のスピーチなら任せろ!いいのを考えといてやるから!」
薫、芹沢、三浦が次々と伊丹を囲んで、盛り上がる。
 「皆さん、ありがとうございます♪」
千花はテンパっている伊丹の横について、腕を絡めると笑った。
「ヒューヒュー」と薫は指笛を鳴らして、「よっ!ナイスカップル!!」と囃す。
 「バ…カメ!!やめねぇかっ!お前もっ!!」
伊丹は必死になって千花の手を解こうとするが、千花が堅く握っているので、離れな
い。
 「これからも、伊丹をよろしくお願いしまーすっ!!」
千花は手を振って、観客に更なる声援を求めた。
 「ハーイ!!」
薫と芹沢が、その声に大きく応える。
 「だあっ!!ヨロシクされてんじゃねぇっ!!!」
その伊丹の声は、警視庁中に響き渡ったという。。。


                         .☆.。.:*・ HAPPY END .☆.。.:*・



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【あとがき】

「いつか、伊丹さんの恋物語を書く!!」と決めていたのが、やっと日の目をみました
(多分)。
事件性をもっと取り入れようかと考えていたのですが、作者の力量が足りない事に
気付き諦めて、ラブコメ街道一直線へ―!!
成功か失敗かはさて置き(←置くのか?!)、とりあえず、はじまってENDマークつけ
られたので、大満足☆

伊丹さんの恋物語は、本編じゃあんまり語られる事がなくって、勿体無い部分です。
1回ありましたけど、失恋しちゃったし。。。
だがそこで知る、伊丹さんの理想像…何気に理想高いっスよね((●≧艸≦)
美人で大人の女な雰囲気の人!!
でも、個人的には年下の女の子にビシバシ言われて、「やるよ、やります!」とか文
句いいながら付き合ってる感じが理想なのです(笑)。
プロポーズも女の子の方から言われて…渋々(←表面だけ)、「じゃ、するか」みたい
な流れになり、「ちょっとーっ!ちゃんと”結婚しよう”とか言ってよ!」と怒られて、実
はしっかり用意していた言葉を言って、女の子をメロメロにさせたり(爆)。
何て言ったのかは、奥様以外知らなくて。
そんな言葉は、何かの時の切り札に使われる(苦笑)。
 奥様「ふーん。じゃ、プロポーズの言葉。亀山さんに言うからね!」
 伊丹「いやっ!それだけは勘弁してくれ!!」
尻に敷かれつつも幸せな伊丹家は、どこか亀山家に似ているかもしれない(笑)。

そして子供!
まず女の子が出来て、親バカ街道を突っ走っていただき…次に出来た男の子は一緒
に遊んでて、奥様に叱られる程。奥様は子供3人居る感覚だろうけど、絶対いいお父
さんになると思うんだ☆
理想のシーンは、子供を肩車してあやす伊丹さん。。。
ハマると思うんだけどなぁ。腰が悪いとか言ってたから、無理かしら。チェッ。


もう、伊丹さんの恋愛計画はバッチリです!!(o≧∀≦)o←コラコラ


突っ込み所は満載かと思いますが、少しでも楽しんでいただけたら、幸いデス。

                                             cometiki拝


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