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伊丹さんの恋「温泉に来てみた!」−『相棒』二次創作小説


『相棒』のキャラクターを使用して書いておりますが、本編とは全く関係ありません
  cometikiオリジナルストーリーです (c)テレビ朝日・東映
※何気に連載モノ 『相棒 ふたりだけの特命係』TOPの下に作品がまとめてあります


年代モノだが小洒落た感じの駅は、旅行者に人気があるらしく
、駅を背景に記念撮影をしている人が目立った。
ここは、いくつも温泉宿のある町―…。
伊丹、三浦(と、その家族)、芹沢(と、その彼女)、そして千花
が完全に休日モードで突っ立っていた。
スーツ以外の服を見慣れず、互いが戸惑いながら会話してい
る。

 「ここで待ってると、ホテルの車が迎えに来てくれるらしいん
 スよ」

芹沢が腕時計を見て、周囲を確認する。

 「お?来たんじゃないか?」

三浦が駅に向かって入ってくる乗用車を指差す。
車はするりと一行の前に停まり、運転席から男が出て来た。

 「伊丹様でしょうか?」
 「そうだが…コレ、全員乗れんのか?」

助手席を合わせても4人乗るのが限界だろう車体と、並んでい
る顔ぶれを見て、伊丹は頭を捻った。
そんな伊丹を他所に、芹沢がいそいそと後部座席のドアを開け
る。

 「乗るのは、先輩と千花ちゃんだけです」
 「はあっ?!」伊丹と千花が同時に声を上げる。
 「邪魔者は退散するから、仲良くやってくれ」

三浦は一安心というように、伊丹の方をポンと叩く。

 「ちょっと待て!聞いてねーぞ!!」

伊丹は三浦の手を振り払った。

 「折角の機会ですし、2人でゆっくり&じっくり話しあった方が
 いいと思いましてね♪」

言いながら芹沢は、千花の背中を押し車内に詰め込もうと
している。

 「ハメやがったな!!」

伊丹が激昂して、芹沢の胸倉を掴んだ瞬間、「やめなさいよ」
と千花が穏やかに言った。

 「”邪魔者”なのはアタシ達。折角のお休みなんだから、
 それぞれ自由に楽しみたいでしょ?でも、アタシ達が居ると
 三浦さんも芹沢さんも気を遣って出来ないの。わかったら
 サッサと乗りましょう。ホテルの人を待たせるのも悪いわ」

伊丹は「ぐっ」と言葉を飲んで、三浦の家族や、芹沢の彼女
に目を遣った。そこには不安気に見守る瞳と共に、騒動に
気付いた野次馬達が集まりつつあった。

 「覚えてろよ!!」

伊丹は芹沢を突き放すと、車に乗り込み力任せにドアを
閉めた。

 「いってらっしゃーい♪」

襟を整えながら、芹沢は呑気に笑って手を振る。
運転手の男も一礼して、車に乗り込むと何事も無かった
かのように一行の前から走り去った。

 「おい。アレ大丈夫なのか?」

三浦がたまらず、芹沢に声を掛ける。

 「ええ。強力な助っ人を用意してますから!」
 「助っ人ぉ〜??」


             * * * * *


 「何でお前が居るんだよ!!」

古いけど大きくて落ち着いた雰囲気の旅館の前で車から
降りた伊丹と千花は、しばし建物に見惚れていた―…と、
伊丹が”何か”を感じ取って振り返る。
そこには、右京と薫。更にたまきと美和子も居た。
薫も伊丹に気付き、2人は同時に声を荒げた。

 「早かったですね」

”子供の喧嘩”を放置して、右京は千花に声を掛ける。

 「あ…ホテルの人が車で迎えに来てくれて…」

状況が飲み込めないまま、それでも千花は応えた。
事情を察した右京は、ふんわり微笑んで説明を加えてみ
る。

 「こちらの旅館は近くに観光名所もあったりして、人気が
 高いのだそうです。それで芹沢刑事が予約を。僕達は
 今、庭園を拝見してきましたが、中々素晴らしかったです
 よ?よかったらチェックインして、行って見られてはどう
 ですか?」
 「芹沢?!」

言い争っていた伊丹と薫が、その言葉に反応して右京を
見る。

 「アイツ、最近やけに特命係に来ると思ったら…」
 「あの野郎〜!!」

伊丹はポケットから携帯を取り出し、収まらない怒りを
ぶつけようとしていた。

 「ちょっと、薫ちゃん!喧嘩してる場合じゃないんじゃ
 ないの?」

たまりかねた美和子が、薫と伊丹の間に割って入る。
そして、目線で千花の存在を訴えた。
千花の傍には、右京とたまきが居て不安にならない
ようにと話し掛けている。

 「あら、じゃあ千花ちゃんて伊丹さんの?」

たまきは目を丸くして、右京を見る。
右京はそれに答えず、黙って頷いた。

 「まあ、モテモテ」

右手を頬に当てて、たまきは感嘆の溜息を零す。

 「えっ?え?何ですか?!」

薫と伊丹を突き飛ばし、美和子は興味津々でたまきに
駆け寄る。
たまきはウキウキした様子で、美和子に告げる。

 「千花ちゃんね、伊丹さんの彼女なんですって」
 「えーっ!!(逡巡し)あ!薫ちゃんが前言ってたコ?」
 「そ。カワイイのに勿体無いだろう?」

鼻息を荒くする美和子の肩を叩いて、薫は冷たい視線を
伊丹に向けた。

 「だ…っ、だから俺は、一度も認めてねーだろって…」

伊丹が言い終わる前に、美和子が伊丹の足の甲を
思いっきり踏みつけた。

 「!!」
 「女に恥かかせる気?!」

痛みで言葉を失くす伊丹を睨み付け、美和子がドスの
効いた声をぶつける。

 「あ!あの…本当にアタシが勝手に好きなだけで…
 その…」

千花は言いながら真っ赤になり、俯いた。

 「かーわーいーいー♪」

そんな千花の姿を見て、たまきと美和子は女子高生の
ような黄色い声を上げた。

 「歓談中の所、申し訳ありませんが、そろそろ中へ
 入りませんか?折角、旅館の前まで来ているのです
 から」

穏やかによく響く右京の声が、その場の空気を現実に
引き戻す。

 「そうですね、行きましょう!ココ、お部屋も人気高い
 のよ♪」

千花を促すようにして、美和子が先陣を切った。
キャリーバックは置き去りで、薫が抱えて後を追う。
右京とたまきも顔を見合わせて、歩き出した。
伊丹はまだ納得しかねる表情で立ち尽くしていたが、
薫が「早く来いよ!」などと言うもので、渋々中へと
足を進めた。


             * * * * *


 「よりにもよって、警部殿と亀山って、お前―…」

露天風呂に浸かり、いい気分を満喫していた三浦の表情
が、一瞬で曇る。
芹沢は隣で景色を眺めながら、悦に入っていた。

 「先輩と杉下警部だからいいんスよ♪」
 「とは言ってもなぁ…」

一人旅に出した我が子を心配するような三浦を、芹沢は
カラカラと笑った。

 「あんな”難事件”、僕等じゃお手上げでしょう?それより
 折角の休暇なんスから、僕等は僕等で楽しみましょう!
 ね?!」
 「…それもそうだなぁ」

三浦は大きく溜息を吐くと、澄んだ空に目を遣った。


             * * * * *


 「冗談じゃねぇ!もう一度確認してくれ!」

旅館のフロントマン相手に、伊丹は吠えていた。
フロントマンは端末を叩くと、極めて事務的に答える。

 「ご予約は芹沢様より、2名様ご一室と承っております」
 「なっ…オイ!それ変えてくれ!俺とコイツ別々で…」
 「生憎、本日満室となっておりまして、申し訳ありません
 が」

そう言って、フロントマンは機械的に頭を下げた。

 「申し訳ありませんってなぁっ!」

伊丹がフロントマンに掴みかかりそうになるのを、寸前
で薫が制した。

 「お前ねぇ、いい加減にしろよ?」
 「亀っ!テメェ、他人事だと思いやがって―…」
 「いいじゃない、同室で。私は構わないわよ?」

凛とした千花の声に、伊丹は振り向く。

 「だっ…おっ…」

鯉のように口をパクパクさせている伊丹の脇を抜け、
千花はフロントでチェックインの記入を済ませると、
ルームキーを受取った。

 「さ、行きましょ」

伊丹を見上げて、千花は歩き出した。
伊丹と薫は呆然として、千花の背中を見送っている。

 「はぁ〜…しっかりしてますねぇ!」

静観していた美和子が、思わず声を上げる。

 「確かに。年齢以上にしっかりした女性ですねぇ」
 「え?どういう事です?」

口元をわずかに綻ばせた右京を見て、たまきが問う。

 「これ以上騒げば旅館の方や、僕達にも迷惑がかかる
 。それを察してチェックインを済ませたのでしょう。ペン
 を持つ手が僅かですが、震えていました。好意を持つ
 相手と2人きりなんて、初めてだと思いますよ?きっと
 伊丹刑事を部屋に入れたら、自分はロビーででも夜
 を明かすつもりなのかもしれません」

右京の話を聞き終わると、美和子は視線を上げて伊丹
の前に進んだ。

 「ちょっと伊丹さん!シャキッとしなさいよ!女の子1人
 エスコート出来ないで、どーすんの!?」

噛み付きそうな勢いで捲くし立てる美和子の後から、
「そーだ、そーだ!」と薫が煽った。
「キッ」と鬼のような目が、薫に向けられる。

 「薫ちゃんも茶々入れないっ!千花ちゃん今1人で、
 すっごい不安なんだからね!」
 「折角の旅行なのに、可哀想…」

たまきは千花の後姿の残像を見つめて「ほう」と、溜息
を吐いた。
伊丹と薫もその方を向き、真顔になっていた。


             * * * * *


 「だーかーら!何でこっち来んだよ!!」
 「いいじゃねぇか!男同士なんだからよ!細かい事
 言うな!!」

右京と薫の部屋に伊丹がやって来て、居座った。しかも
当然のような顔をして、茶菓子を頬張り寛いでいる。

 「お前なぁ〜いい加減、男らしく覚悟決めろよ!」

伊丹は薫を無視して、灰皿を手繰り寄せると煙草に
火を点けた。

 「僕は構いませんよ?」

窓際のソファに座り、香りのよい緑茶を飲みながら右京
が言う。「右京さん!」と、立ち上がりそうな薫を笑顔で
制して。

 「千花さんの了解は得ておられるのでしょうし?」

伊丹は右京から発せられる超冷風に耐えながら、煙草
を揉み消すと笑顔を作って答えた。

 「あ…ああ!そりゃモチロン!すみませんね、警部殿」

2人のやりとりを見ていられずに、薫は温泉まんじゅう
にかぶりついた。
と、障子が勢い良く開いて浴衣姿の美和子がやって来た。

 「薫ちゃん!温泉行こう!温泉〜んっ!」
 「お…お前、ノックぐらいしろよっ…」

まんじゅうに咽ながら、薫がツッコむ。だが、美和子には
全然堪えてないようで、更に大きな声が返って来た。

 「何ーっ!まだそんな格好してんの?温泉ったら浴衣で
 しょーっ!ホラ、着替えて着替えて!あ、右京さんも…」

右京を見る視線上に伊丹を発見して、美和子の表情が
一気に険しくなる。

 「伊丹さん!何でこんなトコ居んの?!」
 「嫁には関係ねぇ」

伊丹はこれ見よがしに、煙草に火を点けるとふかせて
みせた。

 「失礼します」

浴衣姿のたまきが声を掛けて、部屋の中へやって来た。
伊丹に掴みかかろうとしている美和子を、薫が背後に
回って必死に止めている所だった。

 「あらあら」
 「薫ちゃん、止めないで!今度ばかりはどうしても一発
 殴らなきゃ気が済まないのっ!!」
 「美和子、落ち着け!とりあえず座って話そう!な!」
 「話したってわかんないわよ!女の子が、好きな人と
 旅行に行くってのが、どんだけ楽しみで、どんだけ不安
 かっ!!それをこの男に、拳で理解させないと―…」

怒髪天を衝いている美和子の力に、薫は引き摺られそう
になりながらも、懸命に踏ん張った。

 「ここに全員集合なら、千花ちゃん今1人?」

ぽろりと呟いたたまきを、美和子は見る。

 「そっか!こんな事やってる場合じゃないや!」

美和子は薫の手を振り解き、部屋を飛び出して行った。

 「おい!美和子?」

「何が起きたのかわからない」という表情でいる薫に、
右京が助け舟を出す。

 「千花さんの所でしょう。一緒に温泉に行かないか、
 誘いに行ったのではありませんか?」

「ああ」と、納得したように薫は手を打った。

 「右京さん達は行かないんですか?」
 「勿論、行きますよ。着替えますから、待っていてもらえ
 ますか?」

たまきはにこやかに「はい」と言うと、静かに部屋を出て
行った。
ぷこぷこと煙草を吸っている伊丹に向かって、薫は浴衣
を放り投げた。

 「何だよ!!」
 「浴衣」
 「見りゃわかる!!」
 「伊丹刑事。やはり温泉には浴衣ですよ」
 「そうそ♪さっさと着替えろ、行くぞ!」
 「………」

着替え始めた右京と薫を見て、煙草を揉み消すと伊丹は
重たい腰を上げた。


             * * * * *


 「いっやぁ〜♪いい湯でしたね♪」

浴場を出てすぐのホールで、首からタオルを提げた薫が
満足そうに笑う。

 「そうですねぇ」

浴衣さえカッチリ着こなした右京も、つられて微笑んだ。

 「まだかよ、お前の嫁は!」

ホールの喫煙コーナーで、煙草をふかしながら伊丹が
和やかな空気を打ち消した。
薫は笑顔のまま、怒りを噛み殺して伊丹に詰め寄る。

 「お前なぁ〜ホンット、いい加減にしろよ!?」
 「あん?」
 「俺達は休暇で”楽しみに”来てんの!ったく、何が
 気に入らねーのか知らないけど、大人なんだから、
 空気読め!!」
 「俺は別に、来たくて来た訳じゃねーから」
 「はあっ?お前が千花ちゃん誘ったんだろ?温泉行こう
 って!」
 「ばっ…あれは、社交辞令っつーか…本気な訳ねぇって
 !それを」
 「伊丹刑事。もうその辺で」

語気を荒げる伊丹を、薫の心臓まで凍りそうな右京の声
が制した。
薫は身を縮めて、恐る恐る右京を見る。ポーカーフェイス
ではあるが、瞳の奥に怒りの炎を宿していた。
そんな右京に固唾を呑んで固まる、薫と伊丹。
右京はその目で、2人をある方向に促す。
そこには、湯上りのたまき・美和子・千花が立っていた。
薫は「あちゃあ」と左手で顔を覆って、天を仰ぎ。伊丹は
煙草を消す事で、千花から視線を逸らした。

 「美和子さん、あの…」
 「ん?何?」

伊丹に対する怒りで震えている、美和子に千花が声を
掛ける。

 「亀山さんと2人きりでお話したいんですけど、いいで
 すか?」
 「え?!俺??」

突然の申し出にパニクる薫とは対照的に、美和子は
不安気に揺れる千花の瞳から何かを感じ取って、
「いいわよ!」と即答した。
薫の腕を取ると、美和子は千花の前に突き出した。

 「では、僕達は先に部屋に戻っています」

右京も千花の想いを尊重するように、やわらかく言った。


             * * * * *


部屋に戻る為、ホールを後にして一行はエレベーターへと
向かった。
談笑しながら歩く、右京・たまき・美和子の後を3歩程離れ
て伊丹は歩いていた。後ろ髪を引かれるように、時々ホー
ルの方を振り返りながら…。
そんな伊丹に気付いた美和子が、足を止めた。

 「そんなに千花ちゃんが気になる?」
 「(ハッとして)や…そうじゃなくて、俺が気になるのは…
 あの亀の方でっ!」
 「薫ちゃん?」

美和子は伊丹の言葉に、怪訝そうな顔をする。
伊丹は「なんでわかんねーかな」と、眉を顰めた。

 「2人っきりになったらアイツ、ふらっと…いやガバッと…
 いきかねないだろ?!!」

数秒、沈黙が流れる。
口を開いたのは、美和子だった。確認するように、言葉を
並べる。

 「千花ちゃんに…?」
 「そうだよ!!」

至極真面目な顔で答えた伊丹に、美和子は思わず吹き
出した。

 「アハハハハ(爆)!!ある訳ないでしょー!!何言って
 んの、伊丹さん!!」
 「あらぁ、でも千花ちゃんも女だし。亀山さんだってもしか
 したら…ねえ?」

面白そうに話を振るたまきに、右京は一つ溜息を吐く。

 「あなたはたまに、笑えない冗談をいうクセがある。
 そういうの、よくないと思いますよ?」
 「キャーーーーーッ!!!!!」

右京の言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、
千花の悲鳴が響いた。

瞬間―

伊丹と右京は駆け出し、美和子とたまきもそれにならって
後を追った。


             * * * * *


湯上りで上気した桃色の肌が、はだけた浴衣からこぼれ
出て、千花は両手で自らの身体を抱締めていた。
キワドイ所で浴衣が止まり、かろうじてかくれているが、
形の良い胸はふるふると揺れている。
「もうだめ」というように、涙目の千花が薫を見る。
千花を壁際に追い詰めるようにして、その前に立つ薫は、
今まさに、千花の太股に手を伸ばそうとしていた。

 「亀っ!!」

伊丹はその腕を取り、薫の顔面に鉄拳を向けた―

 「伊丹刑事!!」

涼しい顔で伊丹の背後から、拳を引き止めると右京は
千花の足元を見るように促した。
伊丹は血走った目で右京を睨み、「とにかく殴らせろ」
と言わんばかりにもがいた。噛み締めた唇からは、血
が滲んでいる。

 「ふ…ふぇぇぇぇっ…(泣)」

そんな伊丹の足元から、力の抜けるような泣き声が
湧いてきた。

 「?!」

伊丹が視線を移すと、そこには2〜3歳程の子供が
座っていて、無邪気に千花の浴衣を引っ張っていた。
伊丹と目が合うと、子供は火が点いたように泣き
始めた。

 「うぎゃぁぁぁぁぁっ!!」
 「まーくん!もぉ〜…すみません」

子供の声を聞きつけて、母親が駆け寄ってきた。
抱き上げると子供は浴衣にしがみついて「ひっくひ
っく」としゃくりあげた。

 「こちらこそすみません。少し、怖い思いをさせて
 しまいました」

呆然となり力の抜けた伊丹の拳を下げると、右京は
母親に向かって「にっこり」微笑んだ。
母親は、何だかよくわからないといった様子で、「は
ぁ」というと、もう一度深々と頭を下げて去って行った。
薫はオーバーに伊丹の胸を突くと、浴衣の襟を
正してみせる。

 「テメェの甲斐性の無さ棚に上げて殴られたんじゃ、
 割りに合わねぇっつーの!!」
 「何ぃっ!!」

またしても始まるか!?と思われた子供の喧嘩の
間に、千花のか細い声が入った。

 「す…すみませんでした」

その声に弾かれるように伊丹が千花を見ると、
いつの間にかキチンと浴衣を整えて着ていた。

 「謝る事無いよ。千花ちゃんの所為じゃないんだから」

笑ってその傍を離れる薫を見て、伊丹は薫が周囲の
視線から何気に千花を守っていたのだと気付いた。

 「観念しんしゃいっ!」
 「は?!」

ふいに美和子が右腕にしがみついて来て、伊丹は
慌てた。

 「そうねぇ〜後はタイミングかしら?」

やわらかい物言いとは逆に、力強くたまきが伊丹の
左腕を取った。

 「何??」
 「しょうがねぇから、背中押してやるよっ!」

トドメに薫がイタズラっ子のような表情で、伊丹の
背中を押す。

 「おいっ!!」

訳のわからないまま、問答無用で伊丹は3人に
抱えられるようにして走り去った。
「きょとん」としている千花に、右京が人差し指を
立てて意味あり気に言う。

 「いい加減、彼にも頑張ってもらわないといけません
 からね」
 「…??」


             * * * * *


時計の針が午前0時を過ぎてからは、カチコチと時を
刻む音だけが、伊丹と千花を包んでいた。


 「い…痛いんじゃねーのかよ?」

 「べ…別にっ。それより自分だって…」

 「俺はいいんだよ!…あぁっ…」





和室(8畳)の中央に置かれた、木製の存在感ある
テーブルを挟んで、伊丹と千花は正座したまま固まっ
ていた。
足がジンジンと痺れる感覚が麻痺した、その後に来る
大きな波に襲われて伊丹は身悶えた。

 「わかった。とりあえず足は崩しましょう」

千花の提案に伊丹は首を縦に振って頷くと、足を伸
ばして両手で擦った。
千花は、天井を仰ぐと大きな溜息を吐いた。

 「何やってんだろう…」
 「…本当にな」

言ってしまって余計に情けなくなった伊丹は、煙草に
手を伸ばして火を点けた。「ふぅ〜」っと紫煙を燻らせ
、伊丹は遠い目をした。

 「けほっ、けほっ」
 「(ハッとして)あ、悪い。煙いよな」

千花の咳で我に返った伊丹は、慌てて煙草を揉み消
すと、両手でパタパタと煙を散らした。

 「ううん、ごめん。大丈夫だから、吸っていいよ」

少し涙目の千花は、それでも笑って言った。

 「でも、お前―…」
 「好きなんでしょ?アタシにはよくわかんないけど。
 それで落ち着いたりとか出来るなら、吸っていいわよ
 。ココは禁煙じゃないんだし、ね?」

伊丹はテーブルの上の煙草をじっと見つめた。

 「それより、しっかり考えときなさいよね!」
 「な…何をだよ?」
 「明日、亀山さん達に何て言うか」
 「うっ…」


             * * * * *


 「何で”好き”って言えないかねぇ〜あの男わ!」
 「ホント。言った方が絶対!楽になるのにねぇ〜」
 「あ!薫ちゃん、ビール!ビール!」
 「はいはい。ってか、飲み過ぎじゃねぇのか?」

呂律も怪しくなってきた美和子とたまきを見て、薫は
テーブルの上の空き缶の数を数え始めた。

 「もーっ!男が小さい事言わないのっ!!」
 「はい」

だが、美和子に背中を叩かれ、数えるのを中断させ
られて、薫は渋々冷蔵庫にビールを取りに行く。


伊丹と千花を部屋に送った後、たまきと美和子は
右京と薫の部屋に転がり込んで、夕食を一緒に
とった後、酒盛りを始めてしまった。
最初は付き合っていた右京と薫も、午前2時を過ぎ
た辺りから、窓際のソファで2人の成り行きを見守っ
ていた。

 「大丈夫ですかねぇ?」

ビールを運んで、右京の元に戻って来た薫が囁く。

 「明日は完全に二日酔いでしょうねぇ」
 「いや、伊丹の方ですよ」

薫は右京の向かいに座ると、神妙な顔つきになっ
た。

 「心配ですか?」
 「っていうか、千花ちゃんが!あんなにアイツに
 惚れてんのに!」
 「そうですねぇ」
 「さっきも、アイツとじゃなくて俺と話たかったのは、
 アイツの嫌いなモノを教えて欲しいからだ…って。
 好かれなくても、嫌われないようにしたいからって」

まだ酒が残っていたのか、感情的になった薫は
涙ぐんで鼻を啜った。

 「決めるのは伊丹刑事ですよ」
 「わかってますけど!!」

乱暴に右手で顔を拭った薫に、目を細めて右京は
呟く。

 「それでも、気になりますねぇ」


             * * * * *


 「聞かれるに決まってるじゃない」

ケロリと答える千花を、「信じられない」という目で伊丹
は見つめた。
千花がテーブルに「よいしょ」と手を突いて立ち上がる。

 「キチンと”フッた”って言うのよ」
 「え?!」

思いがけない言葉に、伊丹は目を丸くして千花を見上
げた。

 「”やっぱり学生とじゃ釣り合わない”とか、”俺は理想が
 高いんだ”とか…とにかく、巧くアタシを納得させたって」
 「何だよ…それ…」

伊丹の言葉を遮って、千花は続ける。

 「ま。それで亀山さんはダマせても、杉下さんは無理だと
 思うのよねぇ」
 「…」

千花は布団の敷いてある部屋の、ふすまを開けた。

 「だからアタシ、先に帰るわ!」
 「は?!!」
 「フラれて、泣いて先に帰ったって言えば、リアリティ増す
 でしょ?明日…って言っても、あと何時間か。とにかく朝
 イチで帰るから。アタシ」

部屋に入って、千花は自分の荷物の中から着替えを取り
出して揃えた。

 「な…何言ってんだ?」

立ち上がると、千花は悲しげな瞳を伊丹に向けた。

 「もう、会わない」
 「!?」
 「ツライんだぁ、もう。アンタを好きでいるの…すっごい苦し
 いの。だから、二度と会わない」

キッパリと言い切ると、千花は伊丹に背を向けてふすまを
閉めようと手をかけた。
瞬間!伊丹が立ち上がる。

 「す…好きだっつったの、そっちだろ!!」
 「うん。でも、もういい」
 「な…なんだよそれ!そ…その程度だったって事か?!」
 「…」
 「俺はお前に振り回されて、それで…」
 「ごめん」

2人の間に重たい沈黙が流れる。
伊丹は一度俯いてから、千花の背中に向かって真っ直ぐ
言葉を投げた。

 「もう、嫌いになったって事か?」

静かで穏やかな伊丹の声に、心を流されまいと千花は必死
で唇を噛んだ。涙ごと飲み込んで、振り返ると伊丹を見て
笑った。

 「着替えるからさ、覗かないでよね!」
 「答えてないだろ!!」

伊丹は千花に向かう。
千花は、慌ててふすまを閉めようとしたが、寸での所でその
手を止められてしまった。ふすまを持つ手を、伊丹に握られ
る。

 「放して…」
 「答えろ」
 「…」
 「答えろ!」
 「………」

伊丹の詰問に顔を上げていられなくなり、千花は俯いた。
泣き声だけは上げまいと、小さく震えて堪えている千花を
、伊丹はふいに抱き寄せた。
千花は驚いて、抵抗する。

 「嫌だ…放して…」
 「…嫌だ」
 「何が?訳わかんない!放して!!」
 「答えるまで放さん」

伊丹のやわらかい声が、耳元で聞こえて…ついに千花は
堪えられなくなって泣き出した。

 「だって!バカみたいじゃない!アタシばっかりアンタの事
 好きで…好きで…でも、アンタはアタシの事なんて―!」


 「好きだ」


 「ふぇ…?」

腕の中で取り乱す千花を落ち着かせるように、しかし
ハッキリとした口調で、伊丹は言った。
「嘘でしょ?」と言いた気に、千花は涙でぐしゃぐしゃに
なった顔を伊丹に向けると、その顔がゆっくり迫って
きた―…


             * * * * *


 「夜中に倒れて、医者呼んだら”知恵熱です”って、
 お前、いくつだよ!!」
 「うるせぇ!黙ってろ、亀!!」

帰りの列車内。
伊丹の体調がすぐれず、一本遅らせた便には三浦や
芹沢達も居て、いつも通りに騒がしかった。
薫と伊丹、三浦と芹沢が珍しく4人で座っている。

 「夜中って!先輩、何やってたんスか?!」
 「な…何って…」
 「照れる事ぁないぞ、伊丹。好き合ってる男女なら、誰
 でもする事だ!」

三浦のフォローに、芹沢が首を捻る。

 「でも、倒れちゃったんスよねぇ?」
 「…って事は…」

薫、三浦、芹沢が同時に伊丹を見る。
伊丹はただ黙ってその視線に耐えていた。



 「で?結局、2人はどうなったの?!」

美和子が向かい側に座る千花に、右手で”マイク”を
作って質問する。

 「どう…って…」

口篭る千花を見て、たまきがコロコロと笑った。

 「もぉ〜美和子さんたらぁ〜」
 「だって、たまきさんだって気になるでしょう?!」
 「当然、キスは済ませたわよね!!」

何気に隣の美和子より身を乗り出して、たまきが
訊ねる。

 「あ…えと…」

真っ赤になって俯く千花の隣で、右京が「ふっ」と息
を吐く。

 「2人共、無粋ですよ」

その声に少し冷静さを取り戻した2人は、座席に座り
直した。

 「でも、気になりませんか?右京さんは?」

美和子の問いに、中学生のように騒ぐ薫達4人を見て
右京は目を細めた。そして、スッと表情を元に戻すと
千花にこっそり耳打ちする。

 「伊丹刑事。煙草、やめられたようですね」

千花が目を丸くして右京を見るので、美和子とたまき
が一斉に騒いだが、右京は目を閉じ、列車の揺れに
身体を合わせて気持ち良さそうにしているだけだった。



          .☆.。.:*・ HAPPY END .☆.。.:*・



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● あとがき ●

っちゅー事で!!
とりあえず”温泉編”(?)終幕!!
長かった…長かったヨ。。。

なんか本編から外れ始め、
気が付けば温泉にまで行ってしまった、彼等。
どなのよ??

でも、ま。
最終回は全員集合で、大団円♪デス。

分かり辛い所も、多々あるかと思いますが。
(敢えてぼかしてるトコとかね!!)
そこは各自の想像力&妄想力で乗り切って
ください!!←どんな作者じゃ


少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
もぉ、そこだけ!!

2008.9.20 cometiki拝


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