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伊丹さんの恋「第7話と第8話の間」−『相棒』二次創作小説


『相棒』のキャラクターを使用して書いておりますが、本編とは全く関係ありません
  cometikiオリジナルストーリーです (c)テレビ朝日・東映

  今回は『相棒 season7』第7話に触発されて突発的に書いたものです

※何気に連載モノ 『相棒 ふたりだけの特命係』TOPの下に作品がまとめてあります



 ”留守番電話サービスに接続します・・・”


何度目かのコール音の後、冷たい返事が返って来た。


 「仕事、忙しいのかなぁ・・・」


自分の部屋のベッドの上に体育座りして、千花は
ピンク色の携帯をパクンと閉ると、溜息を吐いた。
この調子で、もう3日も連絡が取れない。

「メールなんかしても、返えさねぇからな!」と、メルアド
を交換した時、散々悪態をつきまくったクセに、伊丹は
千花のメールに小まめに返信してくれていた。

メールを打ってスグに返事が来る事は無かったけど、
それでも返事が来ない事は無かった。

・・・3日前までは。


何か怒らせるような事を書いただろうか?と、自分の
送信ボックスをチェックしてみるが、そんなものは無く。

だとするなら、伊丹の仕事が猛烈に忙しいかで・・・


 ”大丈夫?無理してない?
  忙しくても、ご飯はちゃんと食べてね”


母親のようだと思いながらも、連絡の取れない伊丹
にメールを送ってみた。
だけど、やっぱり返事はなかった。


 「倒れたり、してないよね?」


嫌な事ばかりが頭を過って、千花は思い切り頭を
左右に振った。


 「そしたら、芹沢さんが連絡くれるハズだし!」


自分に言い聞かせるつもりで、声に出した瞬間!
握っていた携帯から、着信を知らせるスキマスイッチ
の「ガラナ」が流れた。

千花は慌てて握り直して、携帯を開いて固まった。


 ”芹沢さん”


ディスプレイに浮かんだのは、今一番見たく無い
名前で・・・千花は震える息を整えて、通話ボタン
を押した。


 「もしもし・・・」

 「あ、千花ちゃん。芹沢ですけど。今、大丈夫?」

 「・・・はい?」


携帯を包むように持って、小声で喋っている所為か、
芹沢の声がやけに遠くに聞こえる。

・・・どこからかけているのだろう?


 「ちょっと、変な事聞くんだけどさ・・・先輩から何か
 連絡あった?」

 「え?・・・メール来たのは、3日前が最後で・・・
 さっき電話したけど、留守電になってて・・・」

 「そっかぁ〜・・・マズイなぁ」

 「あ・・・アイツに何かあったんですか?!」


千花は直感で、問い詰める。
芹沢は、ますます小声になって言った。


 「先輩とね、3日前から連絡が取れないんだよ。
 仕事も無断欠勤で・・・」

 「え?行方不明って事ですか?!もしかして、
 何か事件に巻き込まれたとか!?」


感情が先走り、涙声になる千花。声の大きさの
調節が出来なくなっている。


 「千花ちゃん、落ち着いて!その・・・あぁ・・・
 やっぱ、電話するんじゃなかった」

 「何なんですか?!芹沢さん!!何があったん
 ですか?!教えてください!!」


「三浦さんにどやされるなぁ・・・」と、ぼやきながら
芹沢はとつとつと”事件”について語ってくれた。

一般人の千花に、芹沢は最小限の情報で、現在
の伊丹がどのような状態なのかを、最大限に伝えた。



それは、千花が言葉を失う程のモノで・・・



 「千花ちゃん?・・・大丈夫?」


吐息さえ聞こえなくなった、電話の向こうに芹沢は
声を掛け、応えを待つ。


 「はっ・・・は、い」

 「皆、心配してるから、もし何か連絡があったら、
 こっちに電話して欲しいんだ」

 「・・・わかりました」



千花は携帯を切ると、震える手をもう片方の手で
押さえた。どくどくと煩い程に、心臓が鳴っている。
最悪のシナリオが頭に浮かぶ―・・・


 「伊丹さんっ!!」


大声で叫んで、千花は泣いた。
そしてパニック状態のまま、何度も伊丹にダイヤル
する。


 ”留守番電話サービスに接続します・・・”


 「嫌だ・・・」


 ”留守番電話サービスに接続します・・・”


 「嫌だってば!!」


どの位掛け続けただろう、携帯が電池切れを知らせ、
画面が真っ暗になった。
「ゴトン」と、携帯を床に落とす。
千花は髪の毛を掻き揚げて、呼吸を整えた。
涙は随分前に枯れた。
そのお陰で、今は幾分冷静だ。

携帯を拾って、千花は机の上の充電器に挿した。

ふと、雨音が聞こえた気がして、カーテンを開いてみる。


そういえば、夕方から雨だと天気予報が言っていた。
外は結構な降りっぷりだ。



 「!?」



家の前に見慣れた人影を見つけて、千花は自室を
飛び出した。



             * * * * *



商店街から少し離れた所にある、「フラワーショップ・斉藤」。
昼間はさして感じないが、夜は街灯も少なく人通りも無い。


 「伊丹さんっ!」


そこに、ひっそりと伊丹が居た。
雨にうたれてずぶ濡れになっている。

千花は傘も差さずに飛び出し、伊丹に駆け寄った。


 「どうしたの?何やって・・・」


見上げた伊丹は、目が虚ろで無精髭を生やし、まるで
生気が無かった。


 「と・・・とにかく、入って!さぁ!!」


千花は力ずくで伊丹を家の中に入れた。
タンスからバスタオルやタオルを取り出し、伊丹に渡す。


 「身体拭いて!・・・それより、着替え・・・いや、それ
 とも、お風呂・・・」

 「・・・だ」

 「え?!」


お風呂場に向おうとした千花の背中に、伊丹の声が
微かに届く。


 「ゆ・・・めを、見るんだ。
 とても、怖い・・・夢、を・・・」


渡したタオルを抱えたまま、伊丹は目を見開いて、
とり憑かれたように呟いた。目の下にはクマが出来て
いて、土気色の顔は幾分やつれていた。



 ”ある事件があってさ、証拠を隠してる容疑者に
 先輩がついたんだ・・・けど、その容疑者が先輩の
 前で自殺しちゃってね―・・・”



千花の耳に芹沢の声が蘇える。涙が溢れそうになる
のを堪えて、右手でそっと伊丹の頬に触れた。


―・・・いつからあそこに居たんだろう?


体温がまるで感じられない程、伊丹の身体は冷え
切っている。
千花は、伊丹の虚ろな瞳を覗き込んで言う。


 「怖い夢を見るんなら、アタシが一緒に寝てあげる」


伊丹は壊れたアンドロイドみたいに、千花の言葉を
解さないようだった。何かが切れてしまったみたいに
・・・。

それでも千花は、子供に語りかけるように続けた。


 「泣きたい時は、ちゃんと泣いて?見られたくない
 なら、こうしててあげるから・・・」


千花は両腕を伸ばして、伊丹の頭を抱締めた。
雨を含んだ伊丹の髪の毛の匂いを鼻先で感じて、
千花は目頭が熱くなる。


 「・・・な・・・く・・・?」


されるがまま。
千花の肩に頭を乗せて、伊丹が呟く。


 「心配・・・したんだからねっ!!全然連絡取れない
 しっ!!」


込められた腕の力に、息苦しさを覚えた伊丹は、千花
から距離を取ろうと、身体を離した。見ると、そこには
涙でぐちゃぐちゃになった千花の顔があった。



 「勝手に1人でどっかいっちゃわないでよっ!!
 行くならアタシも連れていって―・・・!!」



「ドンッ」と伊丹の胸を両手で叩いて、千花は悲鳴に
近い叫び声を上げた。

その声に、伊丹の目から涙が零れる―・・・


 「うわぁぁぁぁぁっ―・・・」


堰を切ったように号泣して、伊丹が床に崩れ落ちた。
小さく蹲る伊丹を、千花は優しく包み込むようにして
抱締めた。



             * * * * *



 「はっくしょぃ!」


寒気を感じた伊丹は、大きなくしゃみで目覚めた。
一瞬―・・・
状況が飲み込めなかった。

自分の家では無い部屋。
身体に掛けられた、毛布。
服は着ていたまま・・・生乾きで気持ち悪い。


 「おはよ」


声の方を向くと、千花が台所で朝食を作っていた。


ここ数日の記憶が曖昧な伊丹は、確認の為千花に
声を掛ける。


 「ココ・・・」

 「アタシん家。今、ご飯よそうから、座って!」


毛布から抜け出し、伊丹が席に着く。
テーブルには、ハムエッグと味噌汁、そしてご飯が
置かれていた。


 「味の保障は無いけど」


ぶっきらぼうに言って、千花が座る。両手を合わせて
「いただきます」をすると、味噌汁に手をつけた。
伊丹はその光景を、まるでドラマの1シーンのように
眺めながら、記憶を辿っていた。


 「俺、昨日・・・」


 「はくしゅんっ!」


きょとんとする伊丹を前に、千花は気まずそうに鼻を
啜った。


 「エアコン。いつになく高目にしといたんだけど、
 ダメね」

 「お前・・・昨夜、ずっと?」


伊丹の問いには答えず、千花はハムエッグを頬張った。


 「・・・」


伊丹は右手で左腕に触れた。
残っている・・・

泣き疲れて眠ってしまった伊丹の傍で、赤ん坊を抱く
ようにして千花が抱いていてくれた温もりが・・・

そして、
久しぶりに眠れたのだ。



             * * * * *





カタチだけの捜査が納得出来なかった。
同じ刑事だからこそ、許せなかった―・・・。
自分は刑事として当然の行動を取った。
その筈なのに。

追い詰めるつもりは無かった。
ましてや自殺なんて―・・・







   拳銃を取り出した手が、
   迷いなく左胸に当てられ―・・・








             * * * * *



 「ご飯!」


今でも脳裏に焼きついて離れない場面に、千花の
声が飛び込んできた。
「ハッ」と我に返る、伊丹。


 「冷めちゃうでしょ!」


一向に箸をつけない伊丹に、痺れを切らした千花が
頬を膨らませて言った。


 「・・・あぁ」


伊丹は箸を持つと、ハムエッグを口に運んだ。

千花は伊丹に気付かれないように、安堵の溜息を
漏らす。それから、なるだけ軽い口調になるように
細心の注意を払いながら、言葉を続けた。


 「何があったの?」


千花の言葉に、伊丹の手が止まる。


 「・・・なんて、聞かないから。アタシ」

 「へ?」


瞬間冷凍されたような伊丹の口から、拍子抜けな
音が零れる。


 「言えない事は、言わなくていい」

 「・・・」

 「その代わり、辛かったり、苦しい事があったら、
 アタシを頼って?」

 「・・・」

 「アンタは、アタシが一生守るんだから!」

 「・・・」


耳まで真っ赤にして、千花が精一杯の笑みを見せる。


   ”1人で逝かないで―・・・
    逝くなら、私もついていく―・・・
    独りになんてさせない”


全身全霊で訴える千花を見て、「一体、どこまで知って
いるのか?」と思いながら、伊丹は顔を緩ませた。


 「一緒に・・・居てくれんのか?お前が?」

 「うん!」


   ”病める時も、
    健やかなる時も、
    私は貴方と共に・・・”


千花の覚悟を含んだ応えを聞いた、伊丹の頭にぼんやり
とそんな言葉が浮かんだ。



 「ばぁ〜か!ガキに守られる程、腐っちゃいねーよ!」

 「もぉ!人が折角優しく言ってあげてんのにっ!」

 「おい!それ食ってんだろ!?」



ハムエッグの皿を取上げて、「イーッ」とする千花。
それもワザとだとわかった上で、伊丹もノッてやる。



「ありがとな」と、心の中で呟いて。




             * * * * *




 「先輩!どこ行ってたんスかぁっ!!」

自宅に一度戻って、シャワーを浴び髭を剃り、新しいスーツ
に着替えてから、伊丹は出勤した。
1Fのホールで芹沢が、伊丹の顔を見つけて犬っころのよう
に駆け寄って来た。

 「どこも行ってねーよ」

 「行ってたでしょー!探したんスから!なのに電話出ない
 し、連絡無いし!無断欠勤して!!」

 「有給消化だよ、ユウキューショーカ!」

 「なんスか、それ!?ズッル〜!!」

 「取ったモン勝ちなんだよ!」

 「うわ・・・じゃあ、俺もこれから・・・」

 「バーカ!刑事に休みなんかねんだよ!!」


踵を返す芹沢の頭を掴んで、伊丹は引き寄せる。
不満を垂れ流す芹沢を引っ張って、伊丹はまた歩き出した。


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