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金塊


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 「アナタに幾らお金かけてると思ってるの!?」



ぼくの成績が、お母さんの期待に添えない時。

ぼくの態度が、お母さんの望み通りじゃ無かった時。




必ず、そう言って怒られる。




学校に塾、習い事のバイオリンと茶道(これは、お母さんが子供にさせた
かった事なんだって)。

それから、衣食住etc。

とにかく、ぼくにはお金が沢山かかっているらしい。



 「並木さんの所の娘さんは、全科目100点だって言うじゃない!」



それは沙織ちゃんの頭がイイからで―…



 「谷村さんの所の息子さんは、最優秀賞獲ったんですって!」



それは雄二君に才能があるからで―…



 「いい?優。アナタは産まれる前からお金かかってんのよ!そんじょそこら
 の子供とは訳が違うの!わかった?」





ぼくは、お母さんが37歳の時。

不妊治療ってヤツで授かったらしい。

結婚して、子供を持ちたかったお母さんは、それに何百万もつぎ込んだ。





だからって、





ぼくが他の子より能力が高いとか、外見がイイとかいう事は無い。



顔は、お母さんに似て丸顔だし(お母さんはそれが嫌らしい)、身長も
ようやく160センチで、細くて…こけしみたいだ。成績も、平均点取る
のがやっとだし。短くて丸い指では、バイオリンもお茶も巧くいかない。

運動も苦手だ。

走るのも遅くて、25メートルしか泳げなくて―…






 「明日から中間テストでしょう?お母さん、頑張っちゃった」





何かある前の晩ご飯は、いつも以上にスゴイ。

TVで見た高級レストランのフルコース並だ。

何人分あるかわからない位の料理が、テーブル一杯に広げられる。



 「アナタも頑張るのよ」



それは、一つの儀式みたいで…



次々に盛られる料理を、「頑張るよ」と言って口に運ぶ。
お母さんは期待と希望に満ちた目でぼくを見ながら、ぼくを産む為に
沢山のお金を使った事を話す。



 「あら。もう、ご馳走様?」



テーブルの3分の1程の料理を食べて、ギブアップするぼくを不満気に
睨んで、お母さんが言う。

「ごめんなさい」とだけ応えて、ぼくは気付かれないようにトイレへ入った。

吐き気が抑えられなくなり、慌てて便座に頭を突っ込んだ。

ヒキガエルみたいな声で呻きながら、今食べた物を殆ど戻した。





   今日だけじゃない。

   最近、いつもそうなんだ。

   食べると、吐く。

   不思議とお腹は空かない。ただ、頭が少しボーッとする。










 「今度こそは大丈夫よ!前より20万も高い塾で勉強したんだもの!
 全教科満点よ!」



教室で答案用紙を眺めていると、出掛ける前に聞いたお母さんの言葉が、
血管の中を流れて身体中をグルグル回っていった。



これで100点が取れなかったら、また高い塾を見つけて来るんだろうなぁ。



お父さんのお小遣いは、また減らされて…煙草もお酒もやめさせられたのに。



お母さんは、また仕事を増やすんだろう。





   いつまで?

   どれだけ?

   ぼくにお金をかけるのかな?

   こんなぼくに…











 「0点ですって!しかも、白紙で答案出すなんて、何考えてるの!」



黒板を爪で引っ掻いたような声で、お母さんが叫んだ。

ぼくは、殴られた左頬を押さえて、床に座り込んでいた。





   わからなかったんだよ。

   ぼくは、ぼくの価値がわからなくて、動けなくなって―…

   気付いたら、3日間のテストは終わってた。

   今も、お母さんの声を聞きながら考えてるけど、答えは出ない。





 「優!聞きなさい!」



頭上からお母さんの声と拳が降ってくる。

無抵抗なぼくに、お母さんがキレた。



 「出て行け!お前なんて私の子じゃない!」











                   ○      ○      ○











 「それで、こんな所に居るのかい?」



JRの駅を7つ分歩いたら、周囲が真っ暗になってしまった。

お金も、行く当ても無くて、歩道から奥まった所にある、ゴミ置き場の
片隅で蹲っていた。

そこが何となく落ち着いて…ぼんやりと空を眺めていたら、仕立ての
良いスーツに身を包んだ、50代位の男が声を掛けてきた。

やわらかい笑顔と声で、咎めるでもなく、非難するでもなく、ただ不思議
そうにぼくの身の上を心配する。



 「お母さん、心配してるよ。送っていってあげよう」



男は片膝をつき目線を合わせると、ふんわり笑った。

ぼくは「ココがいい」と、首を左右に振る。

やっと分相応の場所に辿り着けた…と、そう感じていたから。



 「君はゴミじゃないだろう?」



男の言葉に、自然と涙が溢れた。

今まで誰も言ってくれなかった、一番言って欲しかった言葉―…





   ぼくは本当にゴミじゃ無いんだろうか?





泣きじゃくるぼくを見て、男は困ったように笑う。



 「そんなに自分の価値を知りたいのかい?」



ぼくは頷く。

男は綺麗な手を差し出して、魔的な声音でこう言った。

 「お母さんもお父さんも関係無い“君個人の価値”を教えてあげよう」



ぼくは鼻を啜ると、男の手を取った。











                   ○      ○      ○











 「何ですか、アナタ!優をどこへやったんです!」



数ヵ月後。

電話で男に呼出された母親は、人気の無い埠頭の倉庫前で、金切り声を
上げていた。

男は両手を前に「まあまあ」と宥める。

 「優君が自分の価値を知りたいと言うので、お手伝いしてたんです」

 「優を返してください!身代金なら―…」

 「落ち着いてください。誘拐ならとっくに身代金を要求してますし、犯人が
 わざわざ素顔で会いに来ないでしょう?」

 「じゃあ、どういう事なのよ!」



男は肩を竦めて溜息を吐くと、倉庫を開けた。

「どうぞ」と紳士的に笑う男が不気味に思えたが、母親は薄暗い中へ飛び
込んだ。





 「優?優!?」





瞬間。

ライトが灯り、母親の視界を遮る。

一度目を閉じ、再び開けるとそこには金塊の山があった。





呆然と立ち尽くす母親の隣に、男がやって来る。





 「20億相当になります」





何の説明にもなっていない言葉に、母親は男へ掴みかかった。





 「優はどこ!」

 「ですから、これが“優君”です」

 「これが…って、アンタ優に何をしたのよ」

 「心外だなぁ。私は善意で手伝ってあげただけなのに?」

 「優を返して!」





鬼のような形相で睨む母親を、男は絶対零度の瞳で見返した。

そして、蝿を追い払うように、母親の手を払いのける。



 「優君の未知数な価値を奪っておいて、よくも言えたもんだ!」

 「え?」

母親は最初、男の言葉の意味が理解できず、ただ発せられた音が
今まで聞いた何よりも冷たかったので、半歩引いて固まった。

 「まあ。個としての価値はゼロでも、各パーツになると話は別なんですけどね」



男はそんな母親に、とびきりの営業用スマイルで言い放つ。



 「…パーツ…って」

 「よかったですねぇ。元手が回収出来た上に、大きな利益だ」



そう言って、男は乾いた拍手をした。





母親は半ば思考を停止したかのように、浅く短い呼吸を繰り返している。





 「ああ。優君からの伝言です」

男は悪魔のような笑みを浮かべて、さも今思い出したかのように口を開く。

その声に、母親は虚ろな表情で反応した。






 「産んでくれて、ありがとう」






その言葉で、ようやく全てを理解した母親は何かが壊れたように「いやぁぁぁっ」
と絶叫して、床に崩れ落ちた。人語では無い何かを喚きながら、泣き狂っている。



男はそんな母親を一瞥すると、何事も無かったかのように倉庫を後にした。

身体に潮風を受けながら、呟く。







 「優君。君の本当の価値は、こんなものじゃなかったのに…」







季節外れの蝶が一羽、男の前を横切り青空へと消えていった。






                                                - 終幕 -


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