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「還らない力。」−『相棒』二次創作小説


『相棒』のキャラクターを使用して書いておりますが、本編とは全く関係ありません
  cometikiオリジナルストーリーです (c)テレビ朝日・東映
  ※これは読みきり







    亀山君。






呼べば君は「はい」と応えて、その大きな瞳に僕を映す。

濁った世界で、唯一綺麗な場所。

僕は、そこに居るのがとても好きだった―…








    亀山君。






”名前を呼ぶ”。

その行為が、実はとても神聖なことなのだと。
君を呼ぶたび、思い出された。








    亀山君。






笑うこと、喜ぶこと。
少しのユーモアと、会話のテンポ。
言葉のイントネーションひとつで、空気は変わる。

君から教わったこと。

おかげで僕は、随分コミュニケーションをとるのが楽になった。

君と一緒に、笑いあえるようになった。








    亀山君。






君が、僕を変えてゆく。

春の陽が、新緑を芽吹かせるみたいに。
あたたかな力を与えて―…



友人でも、パートナーでもない、”相棒”。

僕に丁度いいことば。

大切だから、あまり口に出さず胸の中にしまってある。












 「か…」



「亀山君」は、もう居ない。

今、僕の隣には細身のスーツがよく似合う、男(ひと)。
亀山君とはまるで違うタイプ。



 「神戸君」



だけど、名前のはじまりが同じ。

亀山君と同じ、”カ”。



よかった。



絶対に、僕が間違える訳はない。
ちゃんと認識もしている。

けれど、心が呼んでしまうんだ―…












    亀山君。










 「何スか?右京さん?」



歩いている右京の頭上、数センチから声が降ってくる。
聞きなれた声だが、今聞くものではない。

右京は右眉を少し上げ、「はいぃ?」と問い返した。

今度は、相手が瞬きする。



 「呼びましたよね、今?」

 「呼んでいませんよ」

 「呼びましたって!」



疑惑の視線に耐えかねて、溜息を吐く右京。
立ち止まり、見上げる。



 「どうして僕が、君にそんな嘘を吐かなくてはならないんです?」



静かに訊ねてみれば、男は目を丸くした。
顎に手を当てて、なにやら思考を巡らせ始める。
しばし後、「ぽんっ」と手を叩いて得意気に人差し指を立てて言った。



 「んじゃ、呼んでください♪」



右京の目には、ふさふさの尻尾が左右に揺れているのが見えた。
彼に気づかれないよう、今度は心の中で溜息。



 「”亀山君”」

 「これでいいですよね?」



「ふふん♪」と薫は鼻を鳴らす。
そして益々、笑顔になって右京を見た。



 「右京さん。今日のお昼、そば食いに行きませんか?」

 「…昨日も、おそばでしたねぇ?」

 「あ。飽きました?美和子に美味い店、聞いたんですけど…」



今度は耳が垂れている、と右京は思う。
口元が緩むのを、咳払いで誤魔化した。



 「美和子さんの情報は確かですから、興味ありますねぇ」



右京のことばに、はうはうと瞳を輝かせる薫。



 「じゃ、決定ですね!それが右京さん♪お店の場所もビックリなん
 ですよ………」



宝物を自慢するみたいに身振り手振りで話し始めた薫に目を細めつつ、
右京はまた歩き出した。

心地よい、相棒の声を耳にしながら―…







                                     − 終幕 −


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