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「陣川クンの恋 その後。」−『相棒』二次創作小説


『相棒』のキャラクターを使用して書いておりますが、本編とは全く関係ありません
  ”リクエスト企画番外編”cometikiオリジナルストーリーです (c)テレビ朝日・東映
※何気に連載モノ 『相棒 ふたりだけの特命係』TOPの下に作品がまとめてあります



『経理課』。

そのプレートの前で立ち止まる、薫。
ほりほりと頭を掻いて、中を覗く。

同じ警視庁内でも、ここは少し空気が違う。
”刑事×刑事”してなくて、どこか普通の企業みたいだ。

自分の居場所では無いような気がして、薫はあまり、この辺りの
部署に来るのが得意ではない。



 「あれ?亀山さん、何してるんですか?」



背後から声を掛けられ、薫は思わず壁に張り付いてしまう。



 「じ…陣川さんこそ…何やってんすか?」

 「総務課に書類を取りに」

 「あ…そうですか…」



薫は前回、陣川から”恋のアドバイス”を求められたのに、答えを
はぐらかし。

結果。

彼に、手痛い失恋の傷を負わせてしまった。

それがずっと気がかりで、様子を伺いに来たのだが?

意外とフツーな態度に、やや拍子抜けしてしまう。

”運命の女性(ひと)”なんて言っていたクセに。

その程度だったんだろうか?



 「亀山さん、大丈夫ですか?」

 「え?」

 「何か、怖い顔になってます!」



陣川が、薫の顔を覗き込み、心配する。

その表情に、薫の中の”こども”が頭をもたげた。



 「陣川さんこそ、もう立ち直っちゃったんですね!」

 「!!」



大きく目を見開いてから、俯く陣川に、薫は慌てる。



 「あ…いや、すみません。もっと、落ち込んでるもんだと思った
 から―…」

 「いえ。美花さんの件では、亀山さんにもホントご迷惑をおかけ
 してしまって…」

 「いやいや!それはもぉ、全然いいんですけどね!!」



神妙な声で非礼を詫びる、陣川。

薫はバツが悪くなり、両手を腰に当てると「はっはっは!」と大仰
に笑ってみせた。



 「でも、お陰で出会えましたから!」

 「はい?」

 「正真正銘!”運命の女性”にです!!」



パッと顔を上げた陣川は、眩しい程に輝いている。

薫はただ、呆気にとられていた。
切り替えが早過ぎる。。。





             * * * * *





自棄酒を飲んだ陣川は、繁華街をこけつまろびつして歩いていた。

失恋して、一週間。

勤務後は浴びるように酒を飲むのが、習慣になっていた。

こういう時は、デスクワークの身でよかったと思う。二日酔いで酒
臭くても、上司に嫌味を言われる程度で済むから―…。



 「俺ぇ…ダメだなぁ…」



電柱に寄り掛かり、そう呟いたら右目から一筋、涙が出た。



 「アハハ!もぉ〜気をつけて帰らないと、ダメよぉ〜♪」

 「愛してるよぉ〜リサちゃん♪」

 「アタシも、愛してる!」



木琴みたいなコロコロした笑い声に、顔を上げる、陣川。

そこには、ホステスと客とおぼしき男が居て、女は泥酔している
男を、やや強引にタクシーに押し込んでいた。

陣川は、その男の顔を見て、我に返る。
左手で涙を拭うと、もう一度よく見ようと目を凝らす。



 「リサちゃんわぁ〜?乗らないのぉ〜??」

 「アタシまだ、お仕事なのぉ〜。ごめん、またねぇ♪運転手さん、
 お願いします」



陣川が駆け出すと同時に、タクシーの扉は閉まり、走り去ってし
まった。



 「あの、ちょっと!今の人と、お知り合いですか?!」

 「はぁ?誰、アンタ?」



営業スマイルOFFになった女は、1トーン低い声で不機嫌に陣川
を見る。



 「やっ、あの…この…この人じゃないかと…アレ?どれだっけ?」



陣川は、スーツの内ポケットから、似顔絵やら写真の束を取出し
該当する人物を見せようと試みるが、酔いが過ぎて中々巧く探し
出せない。

見かねた女が、束を取上げめくっていく。



 「コレ?」

 「そう!」



先程の男によく似ている写真が、綺麗なマニキュアの手で摘み
上げられた。

大きく頷く、陣川。

女はもう一度、写真を見て失笑した。



 「全然違うわよ!」

 「庇うのか!?」

 「何、訳のわかんない事言ってんの?別人だっつってんでしょ
 ぉ?!」



女は、写真を束の中に戻すと、陣川の胸に突返した。

そのまま、顔を陣川へ近付ける。

唇が触れる程の距離で止まると、女はニヤリと笑って言った。



 「アンタ、人を見る目無いでしょ?」

 「!?」



その微笑に、陣川の心臓は見事ひっくり返ったのだった。





             * * * * *





 「捨てる神あれば、拾う神あり…って言うんですかねぇ〜…」



特命係に戻り、陣川の現状を右京に話し終えた薫は、”めでたし
、めでたし”とばかりに、注いだコーヒーに口をつけた。

パソコンと向き合っていた右京は、キーボードの手を止めて呟く。



 「亀山君。その使い方はどうかと―…」

 「何にしてもですよ!これで、陣川さん絡みの恋ネタに振り回
 される心配が無くなったっちゅう事です!!」



薫は、空いている手を宙に向って、大きく突き挙げた。

小さく溜息を吐き、紅茶を入れるべく立ち上がる、右京。



 「だと、いいのですがねぇ」

 「大丈夫ですよ!独身で、恋人も居ないらしいですから!」

 「………そうですか」

 「何ですか、その間は?」

 「別に」



黙々とカップに紅茶を注ぐ右京を見つめ、薫は口元を緩める。



 「右京さんも、人恋しくなっちゃいました?!」

 「!!」



ポットが大きく揺れ、カップの外に紅茶が飛び散る。

右京は「熱っ、熱っ!」と、カップとポットを置いて、てんやわんや。

薫も、ティッシュを取りに走った。



 「ちょっと!何やってんスか、右京さん!!」

 「きっ、君が変な事を口走るからです!!」





             * * * * *





デザインビルの1階に設置してあるテーブルセットに並んで座る、
陣川とリサ。

ブティックやレストランなどが併設されている館内は、人の出入り
が多い。

その人達を、2人で眺めている。



 「向こうから来る、グレーのスーツに紫色のネクタイした、30代
 位の男性!」

 「じゃあ、アタシはエレベーター横に立ってる、青年。茶髪で今、
 本を読んでるコ」

 「20代位の?」

 「そ。赤色中心で、コーディネートしてる」

 「えーっ!だって、あの人5分前からあそこ居ますよ?」

 「いいから、見る!」



口を尖らせる、陣川の肩を抱き寄せ、リサはビルの入口に視線を
促せた。

ときめく、陣川。頬を染めながらも、リサに従う。

そこには、人待ち顔の20代前半の女性の姿が。
膝丈の淡いピンク色のニットワンピースに、黒のロングブーツ。
薄いグレーのコートを左手に掛けて持ち、立っている。
手の中に収めていた携帯を開き、電話を掛ける。

リサが目をつけていた男が、「ハッ」としてズボンに手を突っ込み
携帯を取出す。

女が何やら話、振り返る。

男は携帯に耳を当てたまま、本を脇に挟んで手を上げる。

女は笑顔で、小走りに男の元へ駆け寄った。



 「まぁ〜た、リサさんの勝ちですね。今度は何でわかったんです
 か?」

 「ストラップ」



感心する陣川に、リサが親指を立てて、笑う。

男と女の方を見ると、じゃれあう様に会話している。
手に持ったままの携帯にぶら下がっている、お揃いの手作りマス
コット。



 「流行ってんのよねぇ〜…手作りのマスコットを彼氏と持つと、その
 恋が永遠に続く…って。嘘かホントか知らないけど。それにホラ、
 並ぶとよくわかるでしょ。雰囲気!似てるの!カップルとか、夫婦
 とかって、何でか似てくるのよねぇ〜…」

 「はぁ―…名推理ですね。まるで、杉下警部みたいだ」

 「……スギシタ、ケイブ?」

 「あ。言い遅れましたが、僕。刑事なんですよ!」

 「そ、そーなんだ。あ、アタシてっきり、探偵さんだと思ってた。どっち
 かっていうと、貧乏な…」

 「えー!じゃあ、証拠!」



陣川は、スーツの内ポケットから警察手帳を取出すと、得意気にリサ
の前に向けた。

手帳の文字に、見入るリサ。



 「警視庁…経理課…警部補………やだ!陣川さんてば、エリート
 じゃない!」

 「そんな事ないですよ」



言葉とは裏腹に、表情の曇るリサ。

陣川は、褒められた事に気を良くしていて、それに気付かない。

リサ、突然立ち上がる。



 「アタシ、急用思い出しちゃった!」

 「え?」

 「ごめんね、サヨナラ!」



吐き捨てるように言うと、リサはその場を足早に後にした。

陣川、呆然とその背を見送る。





             * * * * *





 「亀山さぁ〜〜〜〜〜…ん」



押収されたDVDの入った段ボールを2箱抱えて、特命係に戻って
来た薫は、地の底から響いてくるような声に恐怖し、思わず箱を落と
してしまった。

見ると、来客用の椅子に腰掛けていた陣川が、浮遊霊みたいに立ち
上がり、薫に歩み寄って来る。



 「っだぁ〜…ビックリした!何やってんスか、陣川さん!?」



薫、屈んで散らばったDVDを集める。



 「リサさんが、この1週間。メールしても返事くれないし、電話しても
 出てくれないんです」

 「はあ。また、フラれちゃいましたか?」

 「やっぱり、そうなんでしょうか?でも…僕。彼女に嫌われるような
 事は何も―…」

 「まぁね。女心は変わりやすいって言いますから」

 「刑事だって、言っちゃったのがマズかったのかなぁ…」



最後の1枚を箱に入れると、薫はそれを抱えて立ち上がる。
自分の机まで持っていって、荷を降ろした。

俯いて、床を見つめている陣川。



 「陣川さん!ここはスパッと諦めて、また次に―…」

 「彼女の本心を聞こうとは思わないのですか?」



段ボール箱を1つ抱えた右京が、戻って来て薫の言葉を遮る。
右京はそっと、自分の机に荷を降ろすと、陣川へ視線を向けた。



 「そんな、傷口に塩塗りこむようなマネしなくても…」

 「しかし、真実はいつか明らかになります。今、傷付く事を恐れて
 数年後、数十年後に後悔するのは、君ですよ?陣川君」

 「……僕……」

 「いいんですよ、陣川さん。無理しなくても!」

 「僕は、真実を知りたいです!」



陣川、キッと顔を上げ力強い瞳で、右京を見る。

右京、にっこり微笑む。



 「では、亀山君。仕事の方は僕がやっておきますから、君は彼
 についていってあげてください」

 「は?!」

 「こういう事は、君の方が適任でしょう?」

 「いや、俺…は…」

 「ありがとうございます!亀山さん!!」



陣川、薫の手を取り握ると、激しく上下に揺らして感謝を伝える。
…逃れられない空気。

薫、右京を見ると既に椅子に座って、仕事を始めている。
…本気で同行する気はないようだ。



 「じゃ、いってきます!!」



目一杯の嫌味を込めて、薫は言った。





             * * * * *





夜。

ネオン街を歩く、薫と陣川。
周囲をきょろきょろ見回している。



 「何で自宅の住所とか、聞いとかないんですか?」

 「そっ!そんな、親しくも無い女性の住所なんて聞けませんよ!」



陣川の持っている、”リサ”の情報は…

リサという名前だという事。苗字はわからない…そもそも、リサが
本名であるかも怪しい。
それに、携帯のメールアドレスと、電話番号だけ…だった。

働いている店の名前も、以前リサが「バラ」と口にしていた気がする
という、陣川の記憶頼みで…なんとも不安要素満載なのだ。



 「でも、働いてる店の名前と場所位は聞けたでしょ?!」

 「……それは、失念してました」



目の前にリサが居る…それだけで、陣川は嬉しくて、幸せで―…
一応、前回の失恋から学んだ、既婚者かどうかと、彼氏の有無に
ついては質問したけれど、後はどうでもよかった。

最初にリサと会った周辺で、それらしい店が無いか?と、今。
薫と陣川は探している。

『バラ色の日々』とか『アンバランス』とか、それらしい店名を見つ
けて、片っ端から当っているが、リサは居ない。



 「本当に”バラ”であってるんでしょうね?」



30軒程まわって、薫が呟く。

もし、この手掛かりさえ間違っていたら、リサを探す事は困難だ。

ネオン街に何軒の飲み屋があり、どれだけの女性が働いている
のか―…薫は、家に帰りたくなった。



 「バラ…でした!」



陣川は、あやふやな記憶を確信に変える為、言い切った。
唯一の手掛かりを失くすのが、怖かったからかもしれない。

薫はそんな陣川の心情を読み取り、「よしっ!」と気合を入れる。



 「んじゃ、信じて探しましょう!」

 「はいっ!」



薫、陣川の背中を叩き「ニッ」と笑う。

陣川も、つられて微笑んだ。



 「あーっ!やっぱり、薫ちゃんじゃなぁ〜いっ!」



黄色い声に振り返ると、コンビニ袋を提げたヒロコが、手を振り
立っていた。



 「わぁ〜ヒロコママ!こんなトコで何やってんの?」

 「こんなトコじゃないわよぉ。ウチのお店、この通りの向こうだ
 もん。薫ちゃんこそどうしたの?こんなイケメン連れて?」

 「あ―…ちょっと、人探し」

 「え?何か事件?」

 「いやいや。プライベートで(笑)」

 「ねぇ〜急ぎじゃないならさぁ、ちょっとウチで飲んでかない?
 常連さんが悪酔いしちゃって、帰したいんだけどキッカケが無く
 て困ってんのよ!助けると思って、ね?!」



ヒロコ、薫の袖口を掴み、もう片方の手で拝むと、ウインクする。

眉根を寄せ、考える薫。
陣川を見る。



 「陣川さん。ちょっとだけ寄り道、いいですか?」

 「は…はい?」

 「ヒロコママ。本当に一杯だけだかんね!」

 「キャーッ!もぉ、薫ちゃん大好きっ!!」



ヒロコは薫の腕に抱きつくと、ぐいぐい引っ張って歩き出した。

陣川はよくわからないまま、その後をついて行く。





             * * * * *





 「ホント、助かったわぁ〜ありがとね、薫ちゃん♪それに陣川
 さんも♪」

 「いえ。自分は何も―…」

 「んな事言わずに、ハイ!」



店に入ると、軟体動物化しているサラリーマンが居て、店のコに
絡んだりして収集がつかなくなっていた。
店内に居る他の客も、どうにか帰そうと試みていたのだが、そう
すると大声を上げて暴れだしそうになるので、必死に宥める側
に回っていた。

そこへ薫が近付き、サラリーマンの前で警察手帳を見せた。「度が
過ぎると、営業妨害になっちゃいますヨ」と耳元で囁くと、男は一気
に酔いが醒めた顔になる。

ごにょごにょと口の中で何か呟いた後、おぼつかない足取りで
清算を済ませて、店の外へ出て行った。

ヒロコが後につき、タクシーまで乗せて今戻って来た所。



ビールを勧めるヒロコに恐縮する、陣川。

その手に、薫はコップを握らせてやる。

3人で乾杯して、ビールに口をつけた。

陣川、薫にすり寄り小声で訊ねる。



 「亀山さん。あの…ママさんて…」

 「あー…元・男。今、女性…みたいな??」

 「ここに居る人、皆ですか?」



働く女性を見回す、陣川。



 「あらぁ〜陣ちゃんは、アタシ達の事キライ?」

 「えっ!いや、その…」



しなをつくって、つぶらな瞳をパチパチさせるヒロコに、陣川たじろぐ。



 「やぁ〜もぉっ!遅くなりましたっ!!」

 「ちょっと〜遅刻してきて、何その態度!?」

 「ごめんねぇ〜ママ…ちょ…っ…と」



カウンターに駆け込んできた人物に、目を見開き固まる、陣川。

相手も、陣川を見て固まってしまった。



 「何よぉ、リサったら!どうしちゃったのよ!?」

 「お?リサ!ねぇ、陣川さん。リサちゃん発見!なぁ〜んて…」



陣川の肩を叩いて笑う、薫。

だが、陣川は笑うどころかリサを見つめたままだ。



 「え?」



咄嗟に薫は、リサと陣川を交互に見比べた。

2人の表情に、次第に薫の方がパニックになっていく。



 「えぇえぇっ?!!」



陣川、突然立ち上がり、無言で店を飛び出す。



 「ちょっ…陣川さん?!」



腰を浮かせ、その背に手を伸ばした、薫。
だが、追い掛けるまではせず、また椅子に腰を下ろした。



 「まさか、本当に?」



薫の問いに、リサは唇を噛み締め、悲しげに頷く。





             * * * * *





翌朝。

眠たそうに出勤してくる、薫。

既にゆったりと紅茶を愉しんでいる右京に、「おはようございます」と
挨拶して、名札をひっくり返すと”出勤”にした。



 「昨日は大変でしたよ〜」

 「そうですか」

 「リサさん、見つかるには見つかったんですけど。彼女、実は元・
 男性で。それ知ったら陣川さん、店飛び出してっちゃって」



コーヒーを淹れる準備をしながら、右京に報告する、薫。



 「何度電話しても出ないし、さっき経理課覗いたら、今日は病欠だ
 って言われました」

 「それで?」

 「いや。ショックだったんじゃないですか?でも、こればっかりは仕方
 ないですよ。時間が解決してくれるのを待つしか…で!また新しい
 女性との恋に燃えてもらえばいいんです」



コポコポと動くコーヒーメーカーを眺める、薫。



 「亀山君。そういうのを差別というんです」

 「は?」



右京の絶対零度の声音に、薫は一瞬身を竦める。



 「人を好きになるという事に、性別や人種、国籍など全く関係ありま
 せん。相手をおもいやり、いたわり、大切にしたいと想う。その気持
 ちだけが重要なのです」

 「いや…でも、恋愛ですよ?」

 「君が美和子さんと一緒に居るのは、”女性”という理由だからです
 か?」

 「それは………それだけじゃ、ありませんけど」

 「ええ。人として素敵な方だからでしょう。今は混乱しているかもしれ
 ませんが、落ち着いて、もう一度まっさらな心で彼女の事を想ったら
 、陣川君の求める”真実”が見えると思うのですがねぇ…」



右京は穏やかに言って、カップに口をつける。

「だけど」と言いかけて、薫は口を噤んだ。
リサは現在女性だと言っても、やっぱり男で…男を恋愛対象として見た
事が無い薫にとっては、右京の言葉はどこか遠くに聞こえた。



  ”最初から、どうにかなるなんて思ってません。
  ただ、一緒に居るのが楽しくて…夢、見てたのかも。
  どうやったって、彼女にもお嫁さんにもなれないのに…
  ごめんなさい。
  こんなヤツの事、もう二度と思い出さないでって…”



薫の耳に、ふと、昨夜のリサの言葉が蘇える。
陣川が去った後、彼女は泣いていた。
全身で陣川の事が好きだと叫びながら、それでも”忘れてくれ”と。



  ”亀山さぁ〜〜〜〜〜…ん。
  僕、フラれちゃったんでしょうか?”



薫は昨日、特命係に来た陣川の事も、思い出す。
陣川はフラれては、いない。

それを知っているのは、薫だけだ。

陣川はまだ、”全て”を知らない。

薫は、拳を握り締めた。



 「俺は…もし。美和子が最初から男だってわかってたら、恋愛感情は
 持たなかったと思います。それでもきっと、”好き”にはなってた。同じ
 男として。そして、ずっと付き合っていくと思います。親友として」

 「そうですか」

 「俺。陣川さんのトコ、行ってきます!伝えたい事があるんで!」

 「では、行きましょうか?」

 「え?」

 「僕も、1つ。言いたい事があるんで」





             * * * * *





陣川は、自分の布団の中で丸くなっていた。
心の整理がつかないまま、朝が来て…出勤する気になれず、仮病を
つかって休んだ。



 「何やってるんだ!僕は!」



抑えきれない感情を、枕にぶつけて大きな溜息を吐く。

「ピンポーン」と玄関チャイムが鳴る。

陣川は、重たい身体を引き摺って、玄関口へ向った。



 「どなたですか?」

 「特命係の杉下です」

 「亀山です」



その声に、ドアノブに伸びかけた手を引っ込める。



 「陣川さん、お話があるんです!」

 「ぼ…僕はありません!帰ってください!」



陣川、扉に向って叫ぶ。

しばし、沈黙。



 「では、一方的に喋らせていただきます。聞きたくなければ耳を
 塞ぐなり何なり、ご自由にどうぞ」



陣川、息を殺して右京の声を聞く。



 「”真実を知りたい”。君は確か昨日、こう言いました。傷付くかも
 しれないとわかっていたのに、そう言ったんです。そして今、君は
 ”真実”を掴んだのでしょうか?」

 「?!」

 「冷静に事実と向き合い、己と向き合って、そこに居るのでしょう
 か?」

 「………」

 「君が納得出来ているならば、それで構いません。事件とは違っ
 て、人の幸せなどコレという答えを、他人が出す事は出来ないの
 ですから。ただ1つだけ。後悔するような事はしないでください」

 「………」

 「僕の話は以上です」



朗々と澄んだ右京の言葉が、陣川の心に沁みる。



 「あの…リサさん、言ってました。”二度と思い出さないで”って」

 「………」

 「でも、陣川さんの事想って、泣いてました。すごく、すごく陣川さん
 の事が大好きなの…俺、感じました。あの気持ちはホンモノだと
 思います!」

 「………」

 「陣川さん!俺も、後悔だけはしないで欲しいです。お願いします!」

 「………」

 「じゃ、失礼します」



薫が頭を下げたのが、声の響きで伝わる。

陣川は2人の気配が遠ざかっていくと、ずるずると床にしゃがみこんだ。
体育座りをして、膝に頭を押し付ける。





             * * * * *





夕暮れ時の公園を、歩いて通り抜ける、リサ。
立っている人物に驚き、足を止める。



 「な…なん…で、ココ……」

 「すみません。ママさんに教えてもらいました」



カジュアルな服装の陣川。
着心地が悪そうに、頭を掻く。

リサ、ギュッと口を一文字に結んで、険しい表情で歩き出す。
目を伏せて、陣川の顔を見ない。

横を通り過ぎる時、腕を掴まれた。



 「やっ…」



真っ赤な顔で、目に涙を浮かべるリサと目が合う、陣川。
それでも必死に、リサは平静を装おうとしていた。



 「何でいきなり、メールも電話もしてくれなくなったんですか?」



責めるでも、怒るでもない、穏やかな口調で、陣川が問う。



 「あ…飽きたのよ!アンタに合わせてやるのがっ!」



リサ、陣川の手を振り払うと、吐き捨てるように言った。



 「じゃあ、今度は僕が合わせます。それなら、いいですか?」

 「は?………何、言ってんの?」



やわらかい瞳を向ける陣川に、リサが怯む。

陣川、腰に両手をあて深呼吸すると、ゆっくり語り出した。



 「正直、まだ混乱してます。リサさんが男性だって事について。
 でも、一緒に居た時間。あなたが女性だったから、楽しかったり
 嬉しかったりしていたのか?っていえば、そんなのイチイチ考え
 てなかったし…僕はただ、リサさんが好きだったんです」

 「ちょ…ちょっと待って!あなた、ストレートでしょ?!」

 「ええ。だから、これが恋愛感情なのかどうかはわかりません。
 だけど、一緒に居たいと思うんです」

 「ダメよ!」

 「どうして?」

 「だって……アンタみたいなエリート。アタシなんかと居るだけで
 経歴に傷が―…」

 「あぁ!それなら大丈夫です。僕、誤認逮捕だなんだで、既に傷
 つきまくりですから(笑)…って、笑い事じゃないんですけど」



コホンと咳払いして、体裁を整えようとする陣川を見て、リサは
吹き出した。
大笑いしながら、ボロボロと涙を零す。



 「ホントに、いいの?」

 「はい」



陣川、にっこり笑ってズボンのポケットからハンカチを取り出すと、
リサに差し出す。

リサ、それを受取り微笑む。





             * * * * *





 「で?今日は何!?」



電話でヒロコに呼び出された薫は、店内の椅子に座って憮然と
している。



 「何じゃないわよぉ〜!どういう人なの?陣ちゃんて!!」

 「ああ。どういうって…経理やってる人だけど?」

 「それが何で、強盗犯だ、殺人犯だってなる訳?!」

 「あ゛ー………」と、口篭る

 「リサったら、”彼を男にするのがアタシの夢”とかって、この間っ
 から、凶悪犯探しに燃えてんの!」

 「何っ!!」

 「人の顔覚えるのが得意なコだけど、危ないでしょう?薫ちゃん
 からやめるように説得してくれなぁ〜い?」



両手を顔の前で合わせ、少し唇を突き出す、ヒロコ。

薫、テーブルに突っ伏して頭を抱える。



  どうしてこうなるんだ?!
  もう、陣川さんの恋絡みでは、俺!悩まないハズだったのに!
  (いや、これは恋じゃねーか?!)
  待てよ。
  このまま行くと、陣川さん×2 !?
  1人でも大変だったのに…無理、無理、無理!!
  誰か、俺を助けてくれぇぇぇぇぇっ!!!



そして、薫の新たな苦悩が始まるのだった。










            .☆.。.:*・ HAPPY END ? .☆.。.:*・



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● あとがき ●


はい!
”陣川クンの恋 その後”。
書き切りました!!



前回、ki-chanさんからリクエストいただいて書いた”陣川クンの恋”
ですが、書き終えてから…ふつふつと「じゃあ、どういう女性が陣川
クンの彼女になるんだろう?」と考えていたら。。。



いやぁ〜ビックリな所と繋がってしまいました(笑)←オイ



ちなみに、”リサ”は公式様でも登場しているキャラです☆
演じているのは、はるな愛さん!!

「おお!なんか似合うじゃないか??」と妄想膨らましていったら、
こんな物語が出来ました。
(陣川さんファンの方には、ごめんなさい…かもしれない)



伊丹さんと千花ちゃんとは違って、また色々ありそうなカップル(?)
ですが、きっとうまくやっていける2人だと思います!!

薫ちゃんの苦労が倍増だけど!!



もぉ、陣川クンは無いでしょう(多分)。

それでは、
少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。




                     2009.10.10 cometiki拝


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