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恋する乙女たち。


cometikiのオリジナル短編となっております
  2011.01.30up


コーヒーショップ店内の片隅に置いてあるテーブル席を陣取って、
タカコとヒナコはお茶をしている。


「ねぇ、聞いてる?」

「聞いてるよ」


タカコは自慢の栗色のロングヘアを左手で弄びながら、
不満気にヒナコを見た。

その声に、鼻ペチャな丸顔を上げて微笑みつつ、
ヒナコはCDのラッピングを続けている。


「ねー役者なんて追っかけんの、やめたら?
どうせ報われないんだから」

「タカちゃん。話逸れてる」


マスカラで武装した目をしばたかせるタカコに、
ヒナコは苦笑いで続きを促した。


「そう!だから、浮気したのよ!
十代のコと…信じられる?」

「ヒロ君が?」

「ヒロキは三週間前に別れたの!今話してんのは、
タクヤよ。タクヤ!」

「そか。ごめん」


ヒナコは、バツが悪そうに肩を竦めた後、
一瞬止まった短くて丸い手を器用に動かして、
ラッピングの仕上げにかかった。

タカコは枝毛のチェックをするフリをして、
その手際の良さに見惚れる。


「ねえ。CDだけなの?」

「あと、手紙」

「ちょっとぉ。プレゼントなんでしょう?
エルメスとかグッチとか、ヴィトンとか―…」

「アタシ…タカちゃんみたいにお金無いから、無理」


身を乗り出し熱弁を奮い始めたタカコに、
ヒナコは少し淋しげな笑顔で応える。


「…」


高校の同級生だった二人は、別々の大学に入り、
一方は商社の営業員。
一方は小企業の事務員になった。

“格差友”とでもいうのだろうか?

金銭感覚は全く合わないが、
それでも十年以上の付き合いになる。


「そ…そうね!
ブランドだからいいってモンでも無いわよ!
どんだけプレゼントしたって、
結局男は他の女の所に行くんだから!」


気不味い空気を追い払うように言い放って、
タカコは冷めたコーヒーの飲んだ。

ヒナコはそんな友人に、返す言葉が見つからず、
ラッピング用のリボンを取り出し、
クルクルとハサミで形を整えていった。
新品の紙袋へ、包装を終えたCDと手紙を入れる。
相手の事を想ってか、ヒナコの口元はやわらかに綻んでいた。


「もう、何年目?」


“現実を見ろ”と言わんばかりに、タカコが呟く。

「三年かな」と、ヒナコは新妻のような笑みで答えた。


「ウソーッ!ヒナコ!もう、やめなよ!
アンタこのままじゃ、人生ダメになるよ?
あんなうだつの上がらない役者追っかけてても、
いい事無いって!それより実りのある恋、しなよ!」


テーブルを叩いて、タカコがヒステリックに叫ぶ。
周囲の客が驚いて二人を見たが、
ヒナコが静かにそれを受けていたので、
野次馬の視線は自然に散っていった。


―…喧騒が、戻る。


「アタシ、幸せだから」


ヒナコはタカコの目を見て、キッパリと言い切った。
そして、ゆっくりと紅茶を口に運んだ。


「そ、そんな事言って…アンタ一生、恋しないつもり?」

「恋なら、してるわ」

「へ?」

「マサモリ君は、アタシのおひさまなの」


三流役者を“おひさま”と呼んで、
ヒナコは向日葵みたいな笑顔を見せた。

今時、少女漫画でも使わないだろう台詞に、
タカコは眩暈を覚える。
テーブルに右肘をつき、頭をそこへ乗せた。
ふと、カップの中に自分の顔が映る。
メイクで上っ面だけを取り繕った顔が…。


「タカちゃん、大丈夫?」

声に顔を上げると、化粧っ気は無いが内面から滲み出る、
華やかな表情をしたヒナコが居た。


 キスをした訳でも無い。
 セックスをした訳でも無い。
 なのに、満たされているヒナコ。


「なんで…幸せ、なのよ?」


タカコの問いに、ヒナコは不思議そうに首を傾げた。


「マサモリ君の事が、好きだから」

「そんな一方通行な気持ち…」

「アタシね。マサモリ君の事を考えただけで、
胸がいっぱいになるの。
ドキドキして、嬉しくて…それだけで幸せなのよ」


とっておきの秘密を話すみたいにして、
ヒナコはタカコに語る。

それは、とてもシンプルな“恋”のありかた。


「ぷっ…」


「あっはっは」と、タカコは店内に響き渡る大声で笑った。


「そうね。ヒナコの方がよっぽど恋してる」


ヒナコは満面の笑みで応えると、腕時計に目を落とした。
「あ、そろそろ」と、席を立つ。


「千秋楽だっけ?」

「うん、そう。じゃあ…」


手を振ろうとしたヒナコに、
「チケット、まだ取れるかな?」と、
タカコが照れ臭そうに呟く。


「一緒に行く?」

「うん」


二人は笑いながら、春風の舞う店外へと足を踏み出した。
散り始めの桜の花びらが、その一歩を祝福しているように見えた。






                                                - 終幕 -


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