このHPは、役者の寺脇康文さんが大好きで大好きで仕方のないcometikiが、
”ネットの片隅で寺脇さんへの愛を叫ぶ”をモットーに自分勝手に叫びまくっているサイトです。
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イラストは全てcometikiの脳内加工処理済です。ご容赦ください。
ご本人・ファンクラブ・事務所等とは全く関係ありません。
はじめにを読んでからご利用ください♪
コーヒーショップ店内の片隅に置いてあるテーブル席を陣取って、
タカコとヒナコはお茶をしている。
「ねぇ、聞いてる?」
「聞いてるよ」
タカコは自慢の栗色のロングヘアを左手で弄びながら、
不満気にヒナコを見た。
その声に、鼻ペチャな丸顔を上げて微笑みつつ、
ヒナコはCDのラッピングを続けている。
「ねー役者なんて追っかけんの、やめたら?
どうせ報われないんだから」
「タカちゃん。話逸れてる」
マスカラで武装した目をしばたかせるタカコに、
ヒナコは苦笑いで続きを促した。
「そう!だから、浮気したのよ!
十代のコと…信じられる?」
「ヒロ君が?」
「ヒロキは三週間前に別れたの!今話してんのは、
タクヤよ。タクヤ!」
「そか。ごめん」
ヒナコは、バツが悪そうに肩を竦めた後、
一瞬止まった短くて丸い手を器用に動かして、
ラッピングの仕上げにかかった。
タカコは枝毛のチェックをするフリをして、
その手際の良さに見惚れる。
「ねえ。CDだけなの?」
「あと、手紙」
「ちょっとぉ。プレゼントなんでしょう?
エルメスとかグッチとか、ヴィトンとか―…」
「アタシ…タカちゃんみたいにお金無いから、無理」
身を乗り出し熱弁を奮い始めたタカコに、
ヒナコは少し淋しげな笑顔で応える。
「…」
高校の同級生だった二人は、別々の大学に入り、
一方は商社の営業員。
一方は小企業の事務員になった。
“格差友”とでもいうのだろうか?
金銭感覚は全く合わないが、
それでも十年以上の付き合いになる。
「そ…そうね!
ブランドだからいいってモンでも無いわよ!
どんだけプレゼントしたって、
結局男は他の女の所に行くんだから!」
気不味い空気を追い払うように言い放って、
タカコは冷めたコーヒーの飲んだ。
ヒナコはそんな友人に、返す言葉が見つからず、
ラッピング用のリボンを取り出し、
クルクルとハサミで形を整えていった。
新品の紙袋へ、包装を終えたCDと手紙を入れる。
相手の事を想ってか、ヒナコの口元はやわらかに綻んでいた。
「もう、何年目?」
“現実を見ろ”と言わんばかりに、タカコが呟く。
「三年かな」と、ヒナコは新妻のような笑みで答えた。
「ウソーッ!ヒナコ!もう、やめなよ!
アンタこのままじゃ、人生ダメになるよ?
あんなうだつの上がらない役者追っかけてても、
いい事無いって!それより実りのある恋、しなよ!」
テーブルを叩いて、タカコがヒステリックに叫ぶ。
周囲の客が驚いて二人を見たが、
ヒナコが静かにそれを受けていたので、
野次馬の視線は自然に散っていった。
―…喧騒が、戻る。
「アタシ、幸せだから」
ヒナコはタカコの目を見て、キッパリと言い切った。
そして、ゆっくりと紅茶を口に運んだ。
「そ、そんな事言って…アンタ一生、恋しないつもり?」
「恋なら、してるわ」
「へ?」
「マサモリ君は、アタシのおひさまなの」
三流役者を“おひさま”と呼んで、
ヒナコは向日葵みたいな笑顔を見せた。
今時、少女漫画でも使わないだろう台詞に、
タカコは眩暈を覚える。
テーブルに右肘をつき、頭をそこへ乗せた。
ふと、カップの中に自分の顔が映る。
メイクで上っ面だけを取り繕った顔が…。
「タカちゃん、大丈夫?」
声に顔を上げると、化粧っ気は無いが内面から滲み出る、
華やかな表情をしたヒナコが居た。
キスをした訳でも無い。
セックスをした訳でも無い。
なのに、満たされているヒナコ。
「なんで…幸せ、なのよ?」
タカコの問いに、ヒナコは不思議そうに首を傾げた。
「マサモリ君の事が、好きだから」
「そんな一方通行な気持ち…」
「アタシね。マサモリ君の事を考えただけで、
胸がいっぱいになるの。
ドキドキして、嬉しくて…それだけで幸せなのよ」
とっておきの秘密を話すみたいにして、
ヒナコはタカコに語る。
それは、とてもシンプルな“恋”のありかた。
「ぷっ…」
「あっはっは」と、タカコは店内に響き渡る大声で笑った。
「そうね。ヒナコの方がよっぽど恋してる」
ヒナコは満面の笑みで応えると、腕時計に目を落とした。
「あ、そろそろ」と、席を立つ。
「千秋楽だっけ?」
「うん、そう。じゃあ…」
手を振ろうとしたヒナコに、
「チケット、まだ取れるかな?」と、
タカコが照れ臭そうに呟く。
「一緒に行く?」
「うん」
二人は笑いながら、春風の舞う店外へと足を踏み出した。
散り始めの桜の花びらが、その一歩を祝福しているように見えた。
- 終幕 -
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